東京の大井で、三十五歳でまだ独り者の安さんと呼ばれている男が「時代屋」という骨董屋を営んでいる。夏のある日、野良猫をかかえ、銀色の日傘をさした、真弓という、なかなかいい女がやって来ると、そのまま店に居ついてしまう。この店は、品物じゃなくて時代を売るから時代屋というので、安物ばかりだが、思い出と歴史の滲み込んだ、古くさいミシンや扇風機が並べられている。一緒に暮すようになっても、安さんは、真弓がどういう過去を持っているか訊こうともしない。そんな真弓がひょいと家を出ていくと、暫く戻ってこない。喫茶店サンライズの独りもんのマスターやクリニーング屋の今井さん夫婦、飲み屋とん吉の夫婦などが親身になって心配していると、真弓は何事もなかったかのように帰って来る。闇屋育ちのマスターは、カレーライス屋、洋品店、レコード屋などをやったあげく、今の店を開き、別れた女房と年頃の娘に毎月仕送りをしながらも、店の女の子に次次と手をつけ、今はユキちゃんとデキているが、その彼女は、同じ店のバーテン、渡辺と愛し合っている。今井さんの奥さんが売りにきた古いトランクから昭和十一年二月二十六日の日付の上野-東京間の古切符が出てきた。四十七年前、ニキビ面だった今井さんが近所の人妻と駆け落ちしようとして連れ戻され、使わなかった切符で、青春の思い出を蘇らせる今井さん。真弓がいない間に、安さんは、どこか真弓に似ている美郷という女と知り合い、関係を結ぶ。東京の孤独で華やいだ暮しを畳んで、彼女は東北の郷里に戻って結婚しようとしており、その寂しさの中で、安さんと出会ったのだ。マスターは遊びが過ぎて店を閉める羽目となり、ユキちゃんと渡辺クンに店を引き取ってもらい、小樽の旧い友人を訪ねて旅に出ることにする。安さんも、岩手でのぞきからくりの売り物があると聞き、一緒に車で旅に出る。道中、しみじみと人と人との絆や傷について考える安さん。そんなことを考えていた安さんが店に戻った翌日、真弓が初めて現れたときと同じように、冬にもかかわらず日傘をさして帰ってきた。ペコリと頭を下げる真弓だが、もちろん安さんは何も言わず訊かない。