靴みがきの女たちにまじって、一人の少年が一つがいの鳩を売っていた。精密器械会社重役久原の娘で高校二年の京子が通りかかり、弟の病気見舞いにと鳩を買った。少年は正夫といい中学三年生、靴みがきの母と知的障害の妹との三人暮しという家庭だ。売った鳩は妹のマスコットでもあった。鳩には飼い馴らされた巣に戻って来るという習性があり、今までにも数回買主から戻って来ていた。これを利用して同じ鳩を売っていたのだ。数日後、京子が飼っていた鳩も一羽が逃げ出して正夫の鳩小屋に戻って来た。が、その鳩は途中で負った傷が原因で死んだ。正夫の担任の女教師秋山は正夫に目をかけていた。高校ヘ進学させたかったがそれもできないので、いい就職先を探していた。秋山は正夫を通じて京子を知った。京子の父が関係する光洋電機は、地元の中学卒業生を採用しなかった。献身的な秋山の陳情は、京子の兄で労務課員の勇次の心を動かした。これが縁で、光洋電機は秋山の学校からも採用することになった。一方、京子も正夫の妹のために、残されていた一羽の鳩を返してやった。光洋電機の就職試験が行われたが、正夫は不合格となった。勇次に言わせると、彼が調べあげた正夫の鳩のサギ行為が最大の原因だったという。秋山は、生活のためには仕方がない行為だから許すべきだと勇次に言い返した。正夫は近くの鉄工所で働くことになった。京子から返された一羽の鳩は、再び京子に買い取られた。正夫は鳩小屋を壊す。鳩のサギ行為を知らされた京子は、引きとった鳩を勇次に猟銃で射殺させた。