自分はスプートニクに積まれて宇宙へ投げ出されたライカ犬に比べればマシだと語るイングマル少年。
父親は出稼ぎで外国に行ったきり戻らず、兄はいじわるでいつもイングマルを苛める。
そして一番愛情を注いでもらいたい母親は病気にかかってしまい寝たきりの生活を送っている。
彼の心の慰めになっているのは愛犬のシッカンだけ。
いつも愛情に飢えており、欲求を満たされないイングマルはトラブルばかり起こしてしまう。
今でいう発達障害に近いところもあるのか欲求を満たすために大声で喚き散らす場面もある。さらにコップを手に取るとぶるぶる震え出すという神経症も持っている。
いよいよ母親の病状が悪くなり、イングマルは地方に住むグンネルの元に預けられることになる。
グンネルも変わり者だが、常に屋根の修理をしているフランソンや、寝たきりでイングマルに女性用の下着のカタログを音読させるサンドベルイなど個性的な人間がこの村にはたくさん住んでいる。
この村でイングマルは性に目覚める。いや、以前にもイングマルがガールフレンドであるカエルに対して性的な興味を覚えるシーンはあったが、この村で彼は本格的にベリットという大人の女性が持つ肉体的な魅力に惹かれていく。
村の外れに住む芸術家がベリットのヌード画を描いている様子を、イングマルが天窓から覗こうとして落下する場面は結構衝撃的だった。
彼の心を悩ませるのはベリットだけではない。
サッカーのチームメイトであるサガは、ボクシングにも興じる活発でハンサムな子だが、実は女の子で徐々に胸が膨らみ始めていることに戸惑いを感じている。
サガは無防備にもイングマルの前で胸をはだけて、自身の身体に起こる変化について悩みを打ち明ける。
意識しないようにぶっきらぼうに振る舞うイングマルだが、内心では彼女の行動にドギマギしている。
夏が終わり、イングマルは久しぶりに母親の元に戻されるが、母の病状は思わしくない。シッカンも預けられたままで戻ってこない。
イングマルは母の誕生日のお祝いにトースターをプレゼントしようとするが、彼が病院に戻ると母はすでに息を引き取っていた。
冬になり再びイングマルはグンネルの元に預けられる。
居間にはテレビが設置されており、近所の人々や同居人のギリシア人の家族が集まっていた。変わらないようで、少しずつ変化していく村の様子。
サンドベルイも既に亡くなっていた。
イングマルはグンネルにシッカンを引き取ってもらうようにお願いする。
母を亡くした彼にとって今、側にいて欲しいのはシッカンだけだった。
しかしシッカンのことを尋ねると歯切れの悪くなるグンネル。
ある日サガはイングマルにシッカンはもう処分されたのだと言い放つ。
現実から逃避するように突然犬の鳴き声を繰り返すイングマルの姿に戸惑いを感じた。
イングマルの頭の中には幸せだった母との思い出が何度もフラッシュバックする。
それでも彼は頭の中でライカ犬や、同じように不幸な境遇に見舞われたあらゆる人々に比べればマシな人生だと自分に言い聞かせる。
どんなに辛くても生きていかなければいけない。
その頃、村では人騒がせなフランソンが氷の張った池に全裸で飛び込んでいた。
決して明るい内容ではないのだが、全体的に牧歌的な空気感が漂う。ただ思春期に特有な毒の効いた作品でもあると思った。
イングマル少年には感情移入を寄せ付けない頑ななところがあるので、少し突き放されたような感はあったものの、それも含めてとても人間らしいドラマだと思った。