ATGが1992年に終わる約10年前に作られた傑作。東宝で配給されている。松田優作さんがその後、森田芳光作品や鈴木清順作品などを経て、それまでのアクション俳優としてのイメージを払拭しつつ、ハリウッドでの活躍を模索すようとする直前の作品でもあり、伊丹十三さんが翌年「お葬式」で監督をされる前の年に公開された記念碑的作品とも言える。森田芳光監督の最高傑作であって、残念ながらこの作品のイマジネーションを超越できる作品はその後作られることはなかったと思う。(あくまで個人的な意見です。)
タイトルの「家族」とはなにか?という問いがこの原作の言わんとするところだが、森田芳光はそれを極めて抽象化して大胆に咀嚼する。それはラストシーンに示される。家族は破壊されるものだという強いメッセージ。母親が最後、台所で眠りに落ちるシーンにヘリコプターの爆音が重なる。ヘリコプターを戦争のイメージに飛躍させれば、この映画が意味のない受験戦争を描く映画であることに気づかされる。
松田優作演じる家庭教師は、結果をもたらす一流のサラリーマンのような存在で、伊丹十三演じる父親から報酬を受け取り、食卓を破壊して去ってゆく。しかしそれはまるで亡霊のようであって、残された家族が残飯整理をするシーンで、やっと家族らしさを取り戻したあと、映画はヘリコプターの爆音とともに眠るように終わってしまう。
あの食卓は「最後の晩餐」だったのだ。なぜなら息子が父親に反発するオイディプス思想や、カインとアベルの対立になぞらえる展開は、どの世界に於いても起こりうる現実でありドラマだからだ。