人間は車ほどには強くない.物理的にも車には負けてしまうので,マン(デニス・ウィーバー)はトレーラーに轢かれないように逃げなければいけないし,人間には精神らしきものが備わっているため,情況に応じて調子が変わったり調子が狂ってしまう弱さがある.車は,乗っている運転手の精神にも影響をされるが,このトレーラーには怒りのような精神も見えているが,運転手はほとんど見えてこない.薄汚れ,錆びついたトレーラーは,大きなタンクを牽引しており,タンク後面には「FLAMMABLE」(可燃性)の文字が見えている.そして,調子を落としたスクールバスをこのタンクローリーが後ろから押してあげている姿には優しさすら漂っている.
車に搭載されたキャメラは,移動撮影をしている.冒頭でキャメラは車外の前面バンパーあたりの低いポジションに据えられている.キャメラが野外に固定された時,はじめてマンが運転する赤い車が映り,その運転席が映される.カーラジオからはさまざまな情報が流れてくる.野球の結果,国勢調査の回答項目のことなどなど,薄く色のついたサングラスをかけ,高慢にも見える運転席のマンはラジオにもっと別のことを話すように文句を言っている.
あたりは荒野でもある.マンはスタンドで妻に電話をしている.妻はスティーブという男にレイプされかけたと電話口で訴えている.その話はどうでもよいにしても,マンはひとりで運転をしているためか,ひとりごとを声に出してしゃべっているし,立ち寄ったカフェでも精神を露にするかのように心の声が聞こえてくる.その開陳に合わせカフェの外側にかけられたOPENの文字とその先に停車している例のトレーラーが見えており,マンの座るカフェの席の壁には,その文字の影が映っている.
マンの車の時速は100マイルの限界に達しようというのに,トレーラーはクラクションを鳴らし続けて,赤い車のすぐ後ろから煽ってくる.トレーラーは前に出るとマンを追い抜かせないように故意が見える妨害をしてくる.荒野を走っていても,ロードサイドには,やや滑稽な情景が映ってくる.立ち往生したスクールバスには,10人ほどの子供がバスの運転手とともに路肩でたむろしている.その子供やバスの運転手も調子を崩したマンには不快な存在に見えている.踏切で停止すると貨物列車が走り過ぎるが,その姿や音にはあのトレーラーに通じる悪意も見えている.あるスタンドでは,戯れのようにガラガラヘビや大きなクモを飼育している.そのケージはマンが通報した電話ボックスともども突っ込んできたトレーラーによって破壊されてしまう.赤い車の男は口の中を切ったのか血を流し,ラジエーターホースの故障で赤い車は峠の頂上に差し掛かり,今にも停止しようとしている.マンの精神的な失調が,彼を取り巻く物理的な情況をも変容させようというのだろうか.
スピードメーターの頂上には60マイルの目盛がある.その「60」の文字は,マンがかけるサングラスが描くふたつの円と同調しているかに見えてくる.可燃性のタンクを引いていたトレーラーは,崖から転落しても期待通りには点火し,爆破しない.マンの背景には沈みゆく赤い夕陽が見えている.そこに赤い車とともに燃えていた彼の精神が染まっていった赤い黄昏も映り込んでいるかにも見えている.