新人モデルの明日香は、業界では悪魔と陰口を叩かれている香純と同棲を始めたことにより、ある猟奇的な殺人事件を目撃することになる。
ホテルの一室で男を殺害する女の姿。その姿は元香純のルームメートのマリにそっくりであった。
生きたまま解剖され装飾を施された死体の無残な姿は、『セブン』や『羊たちの沈黙』のように猟奇的ではあるが、芸術的でもあり犯人の知性を感じさせる。
ブードゥー教の刺繍や朝鮮アサガオの成分が検出されたキスマークなど、パズルのピースのひとつひとつが謎めいていて、前半部分は物語に引き込まれた。
事件を綿密に捜査する刑事たちの存在が、この作品で描かれる現実離れした世界観をうまく地上に繋ぎ止めているように思った。
偶然は嫌いだと言う明日香。彼女は過去に偶然が重なったことで心に大きな傷を負った。香純を良く知る刑事の白木は、香純の過去に隠された忌まわしい真実に近づいていく。
恋人に殺された双子の妹ルーシー。恋人も獄中で自殺した。そして今回の事件も香純と近しい者たちが殺されていく。
これも全て偶然なのか。偶然に思えるようなことも、すべて運命で決まっているという話はよく聞く。本当の意味での偶然など存在しないのだと。
しかし白木はこれは偶然であることを装おった何者かの悪意であることに気づく。
誰かが香純と親しい存在を消そうとしている。明日香が香純に近しい存在になってしまったために命を狙われる羽目になってしまうのも偶然なのかもしれない。しかし明日香は自分の意志で香純と一緒にいることに決めたのだ。
明日香に想いを寄せるカメラマンの空山と、白木は彼女を守るために香純のマンションへと向かう。
途中までは装飾を施された死体が伝えるメッセージは何なのか、犯人の目的は何なのかと、色々と想像力を掻き立てられたが、中盤から全てが先入観を持たせるためのフェイクであることが分かり、意外性はあるが肩透かしを食らったように感じた。
思想なき芸術的で猟奇的な殺人。人の判断を鈍らせるのは恐怖である、という劇中での台詞が耳に残るが、真相が分かってしまうと何だか全てが茶番のような気がした。
刑事たちのドラマが面白かっただけに、明日香と香純の友情や、過去のトラウマの描き方などが雑に感じてしまったのと、最後はただのアクション映画になってしまったのは残念だった。
明日香役の橋本麗香は、台詞はたどたどしいし演技も上手ではないが、この作品の世界観にはとても合っていたように思った。