別に韓国ノワールを意識して、「チェイサー」を見たわけではありませんでした。熱量は高く、テンポは良くて、いい作品でした。しかし、あの女性が殺される場面は、このジャンルの容赦のなさの表れでした。同じ監督、二人の出演者が再び組んだ今回の作品は、その容赦のなさがさらにスケールアップしていました。
前作同様、今回も追う側は、キム・ユンソク。状況を知って優しい声をかけ、仕事を与えるまでは、実にいい人という印象。ところが、金のためとなったら、同じ朝鮮族という誼もあっさり捨て、殺すことに必死になるありさま。大変、屈強な男で、自らの強さが余裕となり、ユーモラスな場面も出てきますが、包丁・斧・牛骨で、次々と人を殺していくところは、凄惨極まりありません。包丁が体に食い込む音、斧が体に刺さる音は、とても聞けたものではありません。
最近の韓国は、清算済みの過去の問題で日本にいちゃもんをつけてきます。統治下の時代に苛め抜かれた世代のことをこのような形で私たち日本人に見せつけたいのではと勘ぐってしまいます。このジャンルの血塗られた場面がどんどんエスカレートしていくのは、過去の復讐として、日本人に見せるのが目的とするのは、考えすぎでしょうね。結局、彼はあまりに負傷を負って死にます。生い立ちは一切触れていませんが、彼もまた哀しき獣の独りでしょう。
追われる側は、またハ・ジョンウ。借金を背負い、韓国に渡った妻のことが気になり、ついに殺人を請け負ってしまいます。ソウルに着いて、計画を立て、妻を探します。ここまでは、次の展開を期待させます。殺人の場面から、彼が走り出します。良い走りです。しかし、映画は同時に動き出していかないのです。殺しのターゲットには、実は二つのルートからの依頼があったのです。このアイデアは面白いのですが、これがわかりにくいのです。カーチェイスもいいのですが、映像だけなのです。
ひとつのルートは、銀行員がもとで、キム・ユンソクを介してハ・ジョンウにきました。もうひとつが、バス会社の社長がもとで、ターゲットの運転手を介していました。動機は、ターゲットの妻と不倫関係にある銀行員は、ターゲットが邪魔なのです。バス会社の社長は、ターゲットが自分の愛人に手を出したということで、どちらも女がらみです。
この作品には、4人の女が登場します。ハ・ジョンウの妻、遺骨の女、ターゲットの妻、バス会社の社長の愛人です。この判別がしづらいのも、話をややこしくしています。
ハ・ジョンウは女の遺骨とともに海に捨てられてしまいます。一般人で堅気の人間だったのですから、あのまま故郷で我慢していれば、妻が帰ってきたものを、といわば無駄死にです。原題の黄海は、そんな人間の亡霊が多い海なのかと、地図を見ていて思いました。