「彼は一体何者だったのだろうか?」
フレデリック・フォーサイスの同名小説をフレッド・ジンネマン監督が映像化。
1962年8月、フランス第五共和政において大統領シャルル・ド・ゴールはアルジェリア独立を認める。これに反発したフランス極右民族主義者たちは秘密軍事組織(OAS)を結成し、ド・ゴール暗殺を試みるが、暗殺計画は相次いで失敗しOASも弱体化する。残されたOAS幹部たちは逆転の一手として、素性不明の英国人"ジャッカル"(演:エドワード・フォックス)にド・ゴール暗殺を依頼するのだった…。
まるで史実なのではないかと思わせるくらい克明なジンネマン監督のドキュメンタリータッチ(原作未読のため僕も史実だと思っていた)、大捜査網を掻い潜る暗殺者、特注の銃など、所謂「図体だけがデカくなった子供たち」が大好きな要素が全部詰まっており面白い。序盤はあまりにもジンネマン監督のタッチが淡白なため味気ない感じもするが、ジャッカルがとっていた行動の真意が終盤に解き明かされると一気に緊張感が高まってくる。同時に、ジャッカルの深謀遠慮に寒気がしてくるのである。
が、それを上回る存在として、本作の殊勲賞はやはりパリ警視庁・ルベル警視(演:マイケル・ロンズデール)に与えられるべきであろう。高度に政治的な内容のため、捜査に必要以上に制約が入るなか、自身が抜擢したキャロン(演:デレク・ジャコビ)と共にジャッカルを追い詰めていく。一見どこにでもいそうで、家庭では妻に尻に敷かれている冴えないオジサンが、フランス政府の危機を前に鬼神の如き推理と大胆な捜査を展開していく姿にただただ頭が下がった。特に2つのパスポートのくだりは経験と論理の見事な融合だったと言っていい。
国家転覆のために知恵を絞った男、そのわずかな隙を突いた警視の胆力、そのどちらに軍配を上げるか女神も悩みに悩んだことだろう。その悩みの結果、最後には思いもよらない運命の悪戯が待っていた。