昨日「バービー」を見たばかりなこともあり、二人の女性を囲む下品でマッチョな男の世界が申し訳なく、大変居心地が悪い。

ラスト近くで「本当の自分になれたのよ」というセリフが出てくるが、
　生活や旦那を捨て、
　強盗をはたらき、
　ひとを殺して、
そうまでしないと本当の自分になれないってどうよ。

いや、実際とても爽快で、彼女らのこれまでの不遇を考えると、これぐらい羽目を外してもいい気がする。

しかし、人生ってそういう差引勘定で折り合いを付けるものなんでしたっけ。
個人が辻褄を合わせに行かないといけないんでしたっけ。
自己責任って奴ですか。ありがとうございました。

本作は、その「本当の自分」を見つけた直後に自死で終劇となる。こういうのやめてほしい。「お前なんか世の中に居場所は無い」とか言いたいわけか。わかってるよ気分悪いな。

「明日に向かって撃て」と似た終わり方ではありますが、本作はinvoluntaryな犯罪なだけに、更に後味が悪いです。

2ヶ月前に映画館鑑賞した作品。今回も4K版。ソフトでは何度も観ている大好きな映画ながら、次はいつ映画館で観られるのかなという懸念もあり、２本立て上映の割安感にも釣られてまた映画館に足を運んでしまった。

上映開始からしばらくは流石に新鮮味に欠けるな、と感じていたが、馬鹿デカいトラックのクラクション、赤土色の乾いた大地、流れる音楽などいずれもが男性的なんだなぁ、と改めて気づいた。
二人を追いかけて追い詰める警察も全員男性。時代背景などを考えながら観ているとイメージしている保守的なアメリカ南部そのもの。

ふたりが素晴らしいバカンスを素敵なまま終えるには、男性っぽく終わりを迎えるしか無かったんだろうな、、。

4kレストア版。フェミ映画の傑作として、今見てもまったく古びていない。
夫の束縛、性暴力、不公平な司法。そうしたものに中指を立てる2人の姿が、とてもかっこいい。
2時間のドラマの中に、重要な転換点がいくつかあり、そのメリハリが素晴らしい。運転をするのが、当初のルイーズからテルマに変わったり、おとなしいテルマが大胆に変身したり、最後まで目が離せない。序盤のシーン、銀の弾丸ウェイトレスのセリフが、この物語を雄弁に語っている。男のキャラクターも、ブラピ、ハーヴェイカイテル、マイケルマドセンなど、みんな個性的で面白い。
今回の上映で、新たにパンフレットも作られている。児玉美月さんとゆっきゆんさんのコラムが素敵すぎる！

フォード•サンダーバード コンパーチブル
ほんまに楽しそうに旅してはったのに残念
『戻っても前のような暮らしは もう出来ない』

女性二人のドライブ、レイプ犯の男を射殺したことから始まる逃避行の顛末を描く。
リドリー・スコット監督。カーリー・クーリ脚本。1991年製作。リドリー・スコット監督による４Kリストア版。

女性二人のロードムービーである。1970年代（正しくは69年だが）アメリカンニューシネマの筆頭「イージーライダー」が、一般論としての閉塞社会の打破を叫んだが、その20年後に、男性による閉塞された女性社会の解放を、本作が叫んだ。

男性による女性への性暴力。それが逃避行のトリガとなるのであるが、それ以前に、テルマの夫ダリルの専制的な態度（相手への思いやりが欠落しているのが致命的だろう）や、ルイーズの過去（具体的に語られないが、語るシーンはもともとあったらしい）が、心理的な与圧として内在している。

殺伐とした砂と岩と空の風景が永遠に連なる西部と、流れ去る湿り気を帯びた楽曲が、彼女らの心情風景。

最後にタンクローリーの爆発炎上シーンをつくったり、ヘリでの追跡シーンをつくったり、ここらへんは、本筋とは関係ないのだけれど、クライムバイオレンス風味をつけたいリドリー・スコットの趣味だろう。
だが、この濃い味付けを加えたので、最後のダイブも違和感がなくなった。

悪運と幸運が二人に次々に訪れるのだけれど、運がつきたという最後。追手の警察官は男ばっかりというのも時代である。
ハーヴェイ・カイテルが演じるハルが二人の女性の理解者という立ち位置なのだが、そんな男も二人を助けることはできない（しない）。リドリー・スコットの本音がここらへんにある。

私もこの二人の在り方として正しいだろうと思う。殉教者のようでもあるのだが、「自らだけで」切り開くのが、二人の生き方として正しいのだ。

ラストのストップモーション。
「明日に向って撃て」のブッチ・キャシディとサンダス・キッドのようだけれど、画面から飛びだすかのような男たちの必死に比べ、疾走してゆく青いサンダーバードの彼女たちの涼やかさは、どうだ。

荒野は必然なのだろうか．彼女らの魂が渇いた土地と青天に解放されていくようにも見える．彼女らを追跡するハル（ハーヴェイ・カイテル）には，彼女らがレイプや夫という地獄にやられっぱなしであったことが見えている．ハルは彼女らを救おうともしているかに見えるが，彼女らにとっては，彼もまた一人の加害者のようにも見えているのかもしれない．
飲食店でうウェイトレスをしているルイーズ（スーザン・サランドン）とその友人のテルマ（ジーナ・デイヴィス）は，意気投合しており，職場や家庭から解放された息抜きのために小さな旅に出ることが所期の目的ではあった．しかし，彼女らの運命を「シルバーブリット」という店が変えてしまう．その店はバンドが演奏し，それに合わせて踊り，またしっぽりと飲むこともでき，表の駐車場では，ハーラン（ティモシー・カーハート）などが強姦をしているような店でもある．彼がテルマを殴り，犯そうとして，しくじり，汚い言葉を吐くと，ルイーズは彼を撃ち殺す．
ルイーズはハーランを殺す必要があったかと言うとそうでもない．彼女の不満やテルマへの同調が彼女に引き鉄を引かせたのであって，衝動的でもありながら，悪いにせよ良いにせよ，彼女らは変わるための転機を待ち望んでいたようにも思える．
プールサイドで水着姿でいるテルマは，また車に乗り込み，オクラホマシティーへ向かう．テルマは泣いている．また，二人は，66年型サンダーバードに乗り，曲に乗りながら座席で縦揺れし，サングラスでタバコを吸い，決して楽しいわけでもない旅路を不思議な道行に変えようともしている．テルマの夫のダリル（クリストファー・マクドナルド）やルイーズの恋人のジミー（マイケル・マドセン）もそこそこにゲスではあり，彼女らが変えたいのは男運でもある．
しかし，ハーランだけでなく，旅の途中でテルマといい仲になる強盗のJ.D.（ブラッド・ピット）にしてもゲスである．また，石油タンクを牽引し，彼女らと幾度となく道路で出会う男も碌でもない．パトカーから現れるナチのようなポリスも彼女らに銃口を向けられ，石油タンクも遂には爆破し炎をあげている．そして，ルイーズは吐いている．　
ルイーズにとっては悪夢の地でもあるテキサスを通らずメキシコへ向かおうとする．ロードサイドには電柱が並び，道を外れれば油田の施設がある．また，時には雨も降る．ルイーズは大丈夫ではない．窓の内側からは日常を送る住民から彼女らに視線が向けられる．テルマの突飛な行動は，防犯カメラに撮られている．彼女らに逃れる場所はないように思えたところで，グランドキャニオンのような素晴らしい場所に行き着き，ヘリでやってきたハルが現れる．そしてパトカーで包囲され，彼女らは今にも殺されそうである．