彼が一瞬でも幸せを感じた瞬間があったとすれば、、、
貧困生活で薬漬け売春稼業の母との二人暮らしの少年(シャロン)が、自分をゲイだと気付き、辛さ・苦悩を抱えながら生き長らえていく様を、少年・青年・成人の三部構成で描いた作品です。観客は、無口な彼の気持ちを、ファン(少年時代のシャロンを虐めっ子から救った大麻売人の元締め)とケヴィン(シャロンの幼馴染)を通じて理解していきます。この二人との会話・触れ合いの描き方が、当作品の肝で、彼らの会話に引き込まれるかどうかで、当作品の評価が変わってくるでしょう。私はストーリー性がある作品を普段は好みますが、当作品の様な会話に引き込まれるロードムービー的な作品にとても惹かれる時があり、当作品は好きになりました。ファン役のマハーシャラ・アリは、当作品とグリーンブックでオスカー助演を受賞していますが、私にとっては両作品とも似た様なテーストで気に入っています。
ファンとの出会いがシャロンを成人まで生き長らえさせたのだと思いますし、年齢が離れたバディ的な繋がりを感じさせます。ファンは人間的に根は良い奴なのでしょう、シャロンとの出会いによって、自分の職業に対して葛藤し始める様子もうかがえ、前半は彼の存在により、当作品に引き込まれていきました。社会の底辺で暮らす人々にとって、成り上がる事とは底辺層での上下関係において上に立つ事でしか無いのでしょう。
青年から成人の部では、ケヴィンとの関係が中心になります。ケヴィン役のアンドレ・ホランドも中々の好演でした。無口なシャロンを何とか喋らせる突っ込み役のコミュニケーション能力は抜群でした。特に成人の部での二人の会話の緊張感は当作品の最大の見所です。意を決したシャロンの一言を言わせる為の演出・演技合戦は見応えがありました。ラストの締め方をどうするのかなぁとハラハラしながら観てましたが、私が腹落ちする納め方(余韻を残したエンディング)も好きです。音楽もヒップから不協和音、昔のラブ・ポップス等バラエティ豊かで好きです。