本作同様やはり定年退職を迎えた男のそれからを描いた「体操しようよ」というのもあった(本作と同年の公開でこちらは草刈正雄が主演)。立て続けに似たような映画が作られているけど、定年後の燃え尽き症候群的サラリーマンをテーマにするというのも、21世紀の今や古臭く感じられてしょうがない。
これは終身雇用制度が揺るがなかった昭和世代のオハナシであろう。今や60そこそこで燃え尽きてしまう人もいまい。燃え尽きてしまったら年寄りは生きていけない時代。年金もたんまりもらえた昭和のサラリーマン戦士のぼやき話を今更持ち出されてもしらけるだけ。
本作に入り込めなかったのもそんな理由からだけど、登場人物、特に主人公夫婦に感情移入がまったくできなかったのも大きい。いくら出世コースを外したからといって出向先で専務にまでなった東大卒のエリート崩れなんかに誰が共感できよう。しかも演ずるのはスタイル抜群の舘ひろしだ。イヤミでしかない。
でもこの舘ひろしのダメっぷりが可愛かったのでこちらはまだ許せる。許せないのは妻役の黒木瞳の方だ。いや彼女が悪いのではなくて彼女の描き方が雑過ぎる。退職した夫をご馳走で迎えるような良妻かと思ったら急に冷たくなる(そういうふうにしか見えない)。
挙句は夫を「身勝手な人」「同じ空気を吸いたくない」とまで言う。でもそんなヒドイ夫には描かれてはいないのだ。だから彼女の怒りもどこからくるのかが見えない。つまり変な女にしか映らない。原作はともかく脚本や演出がダメにしているとしか思えない。
そんな中唯一の救いは広末涼子のコメディエンヌぶりだろうか。彼女がニヤケ顔て胸を膨らませ(ついでに下半身も膨らませ)た舘を寸止めにするシーンは痛快だった。舘は下半身だけは終わっていなかったわけだ。