本作は昭和44年~46年の大阪万博前後の伊丹空港近くの河川敷にできた朝鮮部落にホルモン焼きを生業とした朝鮮人と在日の一家の生活と離散を描く。
最初はその息子からの視点で部落に対する愛憎と一家の成り立ちを語られる。
一家の主人(父親)は、朝鮮人だが日本兵として徴用され太平洋戦争で片腕を無くした。日本敗戦後故郷の済州島に最初の妻と娘2人で帰国するが、四・三事件(本作では描かれていない)で妻や他の親族も殺され、娘2人を連れて日本にやって来る。
ここでやはり子連れの現在の妻と再婚し、息子が生まれる。
最初のエピソードは次女と同部落の幼馴染との結婚祝いの宴(もちろん自宅のホルモン屋)から始まる。ところが役所の係と夫が喧嘩して婚姻届けを破ってしまい、次女は激怒する。
後でわかることだが、男(哲夫)は長女と同級生?の幼馴染で、2人が子供の頃伊丹空港の前にあった米軍基地内に侵入して長女が足に後遺症の残るケガをしてしまった。
男はそれを負い目に感じながら大人になり、長女に求婚するが断られた。それからなぜ次女と結婚する結果になったのかは描かれていないが、哲夫はまだ長女に未練を残している。
哲夫はその部落では珍しい大学出らしいが、定職をもたずぶらぶらしており次女とは結婚後も不仲だ。
次女も夫が長女に未練を残していることをうすうすわかっており、ひょんなことで韓国から渡ってきたばかりの青年と浮気をして、その後も続いていく。
一方長女は自分の足のことを気にかけつい投げやりな気持ちになりがちだったが、家族の励ましで健気に店の手伝いをしていた。
韓国から渡ってきた別の男が長女に惚れ込み、婚約直前まで話は進むが、次女との結婚が破綻してきた哲夫は北朝鮮への渡航を決め、長女に一緒に北へ渡ってくれと必死に頼む。
結局、長女は婚約を破棄し、哲夫と北へ行くことを決める。
この時代北朝鮮は理想的なユートピアのように宣伝されていたこともあり、根深い差別の残る日本を離れる在日は多かった。
次女は哲夫と離婚し、韓国から来た男と再婚して韓国へ戻る際に一緒に行く。
この次女役を井上真央が熱演している。
三女はキャバレーの支配人でそこのオーナーの若い亭主と不倫関係にある。
この女オーナー役の根岸季衣がすごい迫力。
やがて不倫相手の男は離婚して、晴れて三女と結婚する。彼女のお腹には新しい命が宿っているのだった。
本作はこの3人の娘の色恋を中心に描かれていくが、時折長男のいじめによる不登校と折角進学校に受かった長男を励ます父親と退学させることを勧める母親との葛藤があり、結局精神を病んだ息子は自殺する。
この悲劇から立ち直ろうともがく夫婦の姿は感動的だ。
また三女の相手からのプロポーズを受けた父親の娘を任せる言葉の重みは涙モノだった。
家族のために身を粉にして働く親の姿を誰もとやかく言うことはできない。昭和であろうと令和であろうと変わりはないにだが。
現代において格差が広がる中でその美徳が変質しつつあるように感じるのは私だけであろうか?