何度かお話ししましたが,私はアルコール依存症である.そう診断されたのは二十数年前.そして断酒歴10年5ヶ月(2022年6月現在).つまりこの10年と5ヶ月一滴の酒も体内に入れていない.
ベン君は薬物依存症からの更生中で施設に入り,77日間も薬物を断つことに成功した青年.でもイブの日に自宅に戻ってしまいました.本作はベン君と家族の1日を描いた物語.依存症患者にとって今日という1日は特別な意味があります.依存症でなくても,酒やタバコを止めようとされた方には共感していただけると思いますが,何かを断つのは結局は1日1日の積み重ねでしかないのだから.1日断酒,1日禁煙,1日断薬,それが10回続いたら10日間,30回で1ヶ月,365回で1年,そうやって依存の対象から離れる.そして依存症には終わりはありません.つまり完治しない.例え10年断酒していても,今日飲んだら元の木阿弥.人間の壊れたブレーキは修理できないのです.
戻ったベン君は「77日間も薬やってないんだから大丈夫,信用して」と言いますが,それは無理でしょう.まず77日間はあまりにも短すぎます.例えば我が国において,アルコール依存症の入院期間は基本3ヶ月です.体内から酒を抜き,アルコール依存症という病気を知り,真っ当な生活を送れるようにするための素地を作る.それだけの事でも90日はかかるのです.そして就職や労働というストレスが生じる生活に就くのは,さらに1年くらいの期間を要します.だってストレス溜まったらやけ酒したくなるでそ.ですからわずか77日間断薬したベン君が「もう大丈夫」といくら強弁しても,信用できるものではありません.ですが母親のホリーさんは信用し,受け入れてしまいました.だって母親なんですもの.
母親といえば,依存症治療や復帰後の更生に欠かせないのが周囲,特に家族の理解です.更生前,つまり連続飲酒や常習的に薬物を摂取していた時期に家族や仕事,金銭を失った人は大勢います.ですが,幸いな事にベン君は母親はもちろん義父も治療に協力的でしたし,金銭的援助も積極的に行うなど,薬物依存症患者としては恵まれた環境にあります.断薬会に乗り込む姿は家族として理想的だったでしょう.若干過干渉なきらいはありましたが,母親だもんなぁ.ケツは自分で拭けという鉄則を徹底させるのは難しいかもしれません.
それよりも気になったのは,バーンズ家における妹さんアイヴィー(キャスリン・ニュートン!!)の立場です.とても良い娘でイブの夜教会での式典に積極的に参加するなど,自慢の娘さんでありましょう.ですから,ベン君以上に愛情を注いであげる必要があります.だって「ヤク中の兄貴ばっかかばって,私はどうでもいいの?」「あんな兄貴死んじゃえばいいのに!」ってなったら,ベン君の居場所なくなっちゃうじゃん.そんな,ある意味一番の被害者になりうるアイヴィーさんですら,若干懐疑的ではあるものの,ベン君を受け入れている様子は繰り返しますが,依存症患者の家庭としては,特別ではあります.
あと薬物依存ならではと感心したのは,薬物依存症患者であるベン君自身が他人を薬物依存にしてしまう現象でした.つまりベン君は薬物のディーラーとしてクスリを売りさばいていた事です.アルコールやタバコ,パチンコなどは存在そのものは違法でもなんでもないですし,酒屋がアルコールを売ることで逮捕されることはございませんが,クスリの場合は,もちろんそうではない.それを知り得たのは本作最大の収穫でございました.もちろん,若干若いキャスリン・ニュートンさんのお姿も,ね.