勝造の抑制と崩壊

妙な魅力が醸し出されている．艶やかさと女衒の太田勝造（緒形拳）の抑制された不気味さの対比もあり，馬鹿馬鹿しいような女同士の喧嘩や野次もあるが，こうした茶番に現れては消えていく人物たちの悲しみや儚さ，その裏にある貧しげな社会が，前近代的なノスタルジーを誘うのかもしれない．
主な舞台は高知である．大阪も出てきて，ヤクザなイナソウこと稲村宗一（小池朝雄）を筆頭に，三好（成田三樹夫），金串（小林稔侍）といった面々が顔を揃えている．賭場が開かれ，そこに勝造も顔を見せている．しかし，勝造は涼しい顔をしながら，百円で買おうとしていた丸子（佳那晃子）にまんまと百円を持ち逃げされる．それでも勝造は動じた様子もみせない．この丸子がのちに陽暉楼に現れ，主人（北村和夫）を籠絡し，風呂場で全裸のままかんざしを振りかざして格闘を始める．
陽暉楼を牛耳る女将（倍賞美津子）は所属する芸妓たちを育てるようにして支配し，客に応じて差配する．女将の敏腕と女衒の勝造がスカウトしてくる女たちがマッチすることによって，南国土佐に陽暉楼の妖しげな存在を打ち立てている．また，勝造に保護されながら，こうした芸妓に所属せず，好奇心や嫉妬心などから娼妓の世界に入ろうとしている珠子（浅野温子）が物語と，彼女ら彼らの関係を掻き乱していく．
物語の始まりや終わりなどで，やたらと音楽が鳴っていることがある．やたらと咳き込んでいる桃若（池上季実子）がいる．彼女が実質的なヒロインであるが，彼女も珠子に絡まれて，大喧嘩をし，不幸が増していく．「サーカスの唄」が歌われるとさらに不幸が増幅されたように感じる．
雨に打たれている珠子は，行きつ戻りつしながら，大喧嘩でも濡れている．勝造は，彼女に「おとうちゃん」と呼ばれているが，性的な関係にあるとすれば，そこには擬似的な近親相姦が見えている．陽暉楼そのもののも家族的な営みに見えなくもない．しかしそこにあるのは，血の繋がった家族を否定する家族的なものであり，一種，過酷な避難所でもあったのだろう．今，その避難先も失われようとし，勝造は破滅へと歩み出している．