決める踊り

強さの表現は，男性にとっては暴力も一つの現れとはなるだろう．女性にとってはどうだろうか，とりわけイスラム圏の女性にとっての強さはどのように表現されるのだろうか．
ダンサーのフーリア（リナ・クードリ）は階段を滑り落ちている．階段で上位に立つ加害者アリは，その後もフーリアを怯えさせ，彼の存在によって強迫されるようにして，フーリアは息を乱している．フーリアを支援すべき女性活動家も日和ってしまい，なかなか動いてはくれない．フーリアにはバレエのレッスンで培った身体性があり，それは街角のダンススタジオで訓練され，界隈の詐欺めいた芸術や体技とともにあったストリート育ちの身体といってもいいのかもしれない．
バグダッドが話題となり，バルセロナが夢見られる．ここはアルジェリアであって，テロリズムの傷跡が女性たちの精神を蝕み，イスラムの男性社会，そして国際的にも不利な立場にある国家の軋轢が人々を苦しくもさせている．
ヤギが賭けの闘技の対象となっている．ヤギの名は国際的な政治の英雄たちの名がつけられている．プーチンとトランプが闘い，オバマやビンラディン（ジョーカー）も出場している．それは男性的な社会でもあるが，フーリアはこの賭けと戦いの現場に足を踏み入れており，それが彼女の災厄を招く．風が吹く，そして雨が降る．傷ついたフーリアは「身体の劇場」を読んでいる．彼女は，痛めた足を引きずりながらも，遠足で踊る．海に向かって，砂浜で踊る，洗濯物が干された屋上で踊る．彼女の舞踏は戦いにも見えてくる．発話を失った彼女には，振り付けのような手話を身につけている．彼女には書き言葉として，断片化された言葉が手周りのメモに書きつけられる．友人から授かった太陽の印もその一つである．
フーリアがセンターとなって踊る傷ついた女性集団のダンスは，強さのイメージが付きまとっている．決意的であり，この欺瞞極まりない世界でキメようという意志が感じられる．