パスワードを忘れた方はこちら
※各情報を公開しているユーザーの方のみ検索可能です。
メールアドレスをご入力ください。 入力されたメールアドレス宛にパスワードの再設定のお知らせメールが送信されます。
パスワードを再設定いただくためのお知らせメールをお送りしております。
メールをご覧いただきましてパスワードの再設定を行ってください。 本設定は72時間以内にお願い致します。
戻る
公開年:
現在の文字数:0文字
氏名(任意)
ルーマニアのロマ(ジプシー)社会にカメラが入った稀有なドキュメンタリーだ。彼らは、水道もガスも止まった共産主義時代の廃墟アパートを不法占拠して暮らし、ドラッグにはまっている。写っているのはまさにこの世の地獄だが、カメラの視線は子どもたちの目の高さにある。つまり、これを悲惨と名づける私たちよそ者の視線ではないのだ。彼らは地獄で暮らし、また地獄に慣れている。しかし、そんな彼らが別の生き方をしたいという意志を持つ過程にじっと目を向け続けている。
著名人の人生をたどるドキュメンタリーは世界中で膨大な本数が作られているが、どれもこれも似たり寄ったりだ。プロフィール説明と密着系の手持ちカメラ映像が、観客を飽きさせないテンポで繋がれ、たいがいは取材対象の魅力に依存した作りになっている。本作もその手の1本と思いながら見始めた。ところが、このR・フランクのありようはどうだろう。孤独をたたえ、疲弊した顔貌は完全に映画の登場人物のそれだ。彼の意志、喜び、悲しみ、孤独が物語の過剰として立ちのぼる。
私たちの世代は台湾ニューウェイヴを発見した世代だ。80年代、学生の時に池袋で催された台湾映画祭で「恐怖分子」に衝撃を受けて以降、楊徳昌の活動にリアルタイムで伴走したという思いがある。本作が同映画祭で紹介された時の邦題は「幼馴染み」だった。今、再見するに際し、万感の思いが去来する。そしてこれは名作によくあることだが、初見時とは印象が違う。単なるカップルのすれ違い物語であるだけでなく、迪化街という台北の問屋街の歴史と空気へのオマージュだったのだ。
「トランボ」での演技が素晴らしかったB・クランストンが、麻薬捜査官として頑張る。コロンビアの資金洗浄組織に潜入しての捜査は緊張をきわめ、組織を追いつめるはずの主人公が、どんどん精神的に追いつめられていく。この逆説こそ本作の面白さだ。組織のコロンビア人たちには、残忍さと同時に、人情に厚い仲間意識がある。この人間性が本作に勧善懲悪を揺さぶる味を加えている。心理ゲームにあって、罪悪感を抱くのは覆面捜査官たちであり、それを見守る私たちの方なのである。
子どもを蔑ろにして生きた母親が、最後は子どもたちに必要とされなくなる。それだけ彼らは成長したわけだ。その軌跡がじっくり撮影されて。キャメラの前で平然とドラッグを吸う男たち。そのヤケッパチの荒んだ環境。そこからトトと次姉は抜け出した。その契機がヒップホップであり、デジカメというところに今が匂って。特にレンズに向かって自問自答する次姉、その表情が切なく健気で胸を打つ。特殊な社会状況下の青春ドキュメントと見せて、普遍の自立と出発を浮かび上がらせた秀作。
いかにもクセ者のカメラマン。その生きた軌跡を、彼自身が撮った映像作品の如くコラージュ風に構成して。その型破りの手法が刺激的ではある。もう見ているとこの作り手たちが彼にゾッコン惚れて、あふれるばかりの敬意を払ってることがよく分かる。だけど前号紹介の「ターシャ・テューダー」もそうだったけど、好きな人には分かるよね、みたいな幅の狭さも感じて。こちらはなんだかファンクラブの集いに紛れ込んだ部外者の心持ちに。ねえ、もう少し観客のことも考えて映画を作ってよ。
経済成長期の八〇年代台北。時代の変化に違和感をもつ男と、その波に乗ろうとする女。その心のすれ違いが描かれて。日本にもかつて、時代に対して異議申し立ての映画があった。その作品群に較べれば、こちらは昂奮もしない、絶叫もしない。その静かな語り口が、かえって絶望の深さを感じさせ。米国人でも日本人でもなく、ましてや中国人でもない。これは台湾人のアイデンティティー探しの映画にも思える。が、この浮遊感は万国共通だ。夜のバイク疾走は「フェリーニのローマ」を。
潜入捜査ものは数あれど、これは活劇ではなく実録風。標的が麻薬王エスコバルというのが興味津津。主人公が大富豪に化け、マネーロンダリングを餌に敵を一杯ひっかける作戦が面白い。主人公の捜査官の家庭描写も取り入れ、夫・父としての素顔も見せる。これがあるおかげでピンチ場面のスリルにリアル感が。B・クランストンのうろたえ演技が見ものだが、チト表情が豊かすぎの感も。敵側の夫婦を裏切る話はもう少し丁寧に見たかった。敵味方を越えた友情っていうノアールの定番をね。
10歳の少年トトと2人の姉。父は不明、母は麻薬売買で服役中の姉弟たちが、ドラッグがすぐそばにあるボロアパートでの生活から何とか身を立て直そうと格闘する。ルーマニアのロマ家族を映し出したドキュメンタリー。まるでフィクションのような近さでカメラは彼らをとらえていて驚く。運、あるいは心の強さが隔てた、この家族それぞれが辿る人生の明暗を監督が妙に冷静に見つめているから、一層ドラマを見ているよう。親の負を断ち切ること。このメッセージはシビアなほど明快だ。
若き日にスイスから単身ニューヨークに渡り、1958年に発表した写真集〝アメリカンズ〟の成功で、現代写真の寵児となったロバート・フランク。彼の反骨精神に富んだキャリアと波乱万丈の人生を、長くフランクの映像作品の編集を担当したローラ・イスラエルが追いかけたドキュメンタリー。被写体やその作品群と一体化する近しさで映画を織り上げる、強い思い入れは伝わるが、批評性がないので、映し出されるフランク像も時代性も曖昧な気が。もっと別の切り口があったのでは?
エドワード・ヤンの長編第2作。主演は、これが唯一の主演作となる盟友ホウ・シャオシェン。幼なじみで、何となく付き合いが続いている男女が、台北の街で、過去と未来に思いを巡らせながら関係をこじらせていく。80年代半ば。当時の台湾の若者にとって、日本がどんな存在だったかがよくわかる描写も多く、スクリーンから80年代の風が立ち込めて眩暈。4K修復版のせいもあってか、とにかく街の風景がクリア。後半の夜景のシーンは圧巻。映画史に残る奇跡の瞬間をぜひ劇場で!
不屈の精神を持った知恵者にして、家族思いという点で、記憶に新しい当たり役〝トランボ〟と通じるが、今回、ブライアン・クランストンが演じるのは、世界最大の麻薬組織への潜入捜査官ロバート・メイザー。この実在の人物による回顧録を原作に、80年代の裏社会を緊張感ある人間描写で筆致。好演する俳優陣、みんな顔が怖い。男たちがまとう威圧感とギトギトした欲望、また静かな凶暴さを鋭くスパークさせる演技の応酬がスリリングで見応えあり。ホントかいな、と思うような話だが。