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略歴

1924.3.27‐2010.12.28
北海道函館市生まれ。29年、野村芳亭監督作「母」の子役オーディションに飛び入り参加して合格。5歳で松竹蒲田に入社し、天才子役として人気を博す。37年、PCLに引き抜かれ、「綴方教室」(38)に主演。この成功で続々と主演作が作られ、戦時中も活躍を続ける。50年にフリーとなり、木下惠介監督の「カルメン故郷に帰る」(51)や「二十四の瞳」(54)、成瀬巳喜男監督の「稲妻」(52)や「浮雲」(55)など、いずれも日本映画史に残る秀作に主演した。55年に当時助監督だった松山善三と結婚してからも、木下と成瀬作品のヒロインとして多くの映画に主演し、それと共に演技を深化させていった。また79年の「衝動殺人・息子よ」を最後に映画から離れてからは、エッセイストとしても活躍した。

ここがすごい!

“デコちゃん”の愛称で親しまれた天才子役から、日本映画の黄金期を彩る大女優へと大成。確かな演技力で巨匠監督とのコンビ作も多く、天真爛漫なストリッパーを演じた日本初のフルカラー作品「カルメン故郷に帰る」(51)や「二十四の瞳」(54)、「喜びも悲しみも幾歳月」(57)の木下恵介、「浮雲」(55)、「女が階段を上る時」(60)の成瀬巳喜男、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞に輝いた「無法松の一生」(58)の稲垣浩、「名もなく貧しく美しく」(61)の夫・松山善三らとともに輝かしい名作を生み出した。1979年の女優引退後はエッセイストとして活動。映画では制作や朗読にも携わっていたが、2010年12月28日惜しまれつつ86歳の生涯を閉じた。

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  • 浮雲(1955)
  • 林芙美子の原作を成瀬巳喜男監督が映画化したメロドラマで、不誠実な男に振り回されながらも、腐れ縁を断ち切れない女の業を卓越した演技で見せる。作品はキネマ旬報ベスト・ワン、秀子は第1回の女優賞を受賞した。
  • レビューから
  • 男性・女性の社会構造は近代でドラスティックに変容した、ようなフリをしている。けれど、本質的にはちっとも変わっていない。流れ、転がされる人生は浮き上がることなく、雲の淀みのなかで晴れ間を見ず、うっすらと尽き果てる。 悲しいかな、朽ち果てるその姿が美しい。
  • 二十四の瞳(1954)
  • 壺井栄のベストセラーの映画化で小豆島の分校に赴任した泣き虫の新米教師役。戦争を挟む12人の生徒との交流を抒情的に描き大ヒット、秀子自身も女優賞を独占した。この撮影が縁で助監督だった松山善三と翌年、結婚。
  • レビューから
  • 逆風の中でも持ち前の明るさで周囲を変えていく、と思いきや国が戦争へと突き進む中で大事な人を失っていき、徐々に彼女の心も荒んでいく。ここの描写が秀逸。 終戦を迎え、再び同じ小学校に赴任するところからの20分ほどが最も感動的だった。
  • 放浪記(1962)
  • 無名時代の放浪生活を描いた林芙美子の自伝的小説を、成瀬巳喜男監督が映画化。秀子は貧しさの中で恋と文学に生きる女の鬱屈や奔放さを、表情や歩き方、口調などに滲ませ、演技派らしいリアルな存在感がうならせる。
  • レビューから
  • 放浪記と言えば森光子さんの舞台版が有名であるが、わたしはやっぱりこちらがしっくりきたりする。 高峰版林芙美子のねじけた感じの表情といい、不美人ぶり(内面も含めて)が忠実のような気がする。

略歴

1933.11.8‐
東京生まれ。仙台に住んでいた高校時代、公演に来た長谷川一夫に女優志願を訴え、その後上京。51年に長谷川の紹介で、大映に第5期ニューフェイスとして入社した。「死の街を逃れて」(52)でデビューし、“性典”シリーズで人気を得る。一方で「祇園囃子」(53)、「赤線地帯」(56)などの溝口健二監督作品で実力を身につけ、57年に「青空娘」で増村保造監督と初コンビを組む。以降は「妻は告白する」(61)、「清作の妻」(65)、「積木の箱」(68)など多くの映画で増村作品に主演し、迸る情念と溢れるばかりのエロティシズムで観客を魅了した。他にも市川崑、川島雄三、豊田四郎、今井正、山本薩夫など、彼女に魅せられた名匠は多い。

ここがすごい!

三島由紀夫は若尾文子を“氷イチゴ”のようだと喩えた。あどけなさとクールさ、和服姿も上品かつ妖艶、彼女のファム・ファタール的な魅力は二面性にあると言ってもいい。大映の第5期ニューフェイスとしてデビュー後、庶民的な可憐さで人気を博すが、1956年には溝口健二監督の「赤線地帯」で打算的な娼婦という汚れ役に挑戦。増村保造監督とは「妻は告白する」(61)など20作に渡るコンビで、聖俗併せ持つ情熱的な女性像を作り上げていった。1960年代半ばには各映画賞を総なめにし、その後、テレビや舞台でも第一線で活躍。彼女の主演作は名画座で繰り返し上映され、近年では彼女を“あやや”と呼ぶ若い世代にまでディープなファン層を広げている。

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  • 祇園囃子
  • 20歳で溝口健二監督に抜擢された作品で、演じたのは古い因習の残る祇園にやってきた新人舞妓。封建性に抵抗する戦後派の気の強い娘を生き生きと演じ、アイドル人気だけではない本格的な女優としての第一歩を記した。
  • レビューから
  • 木暮美千代が覚悟を決め足袋を脱ぐシーン、終盤の若尾史子が木暮美千代に抱きつくときカメラがさっとパンするシーンなど息を呑むばかり。
  • 女は二度生まれる
  • “若尾文子を女にしてみせる”と宣言した川島雄三監督の下、様々な男と関係を結ぶことで女として変化してゆく奔放だが憎めない神楽坂の芸者を熱演。この年はキネマ旬報賞、ブルーリボン賞など主演女優賞を独占した。
  • レビューから
  • 出てくる男という男が皆、若尾文子の主人公に惹かれていく。 それが十分納得できるほど、若尾文子の魅力が存分に映し出されている。 私も惹かれてしまったひとりだ。
  • 清作の妻
  • 差別や偏見の中で逞しく生き、夫を再び戦場に行かせぬようにとその眼を潰す妻。色っぽくも鬼気迫る演技でブルーリボン主演女優賞を獲得。増村保造監督とのコンビでは、女性の強烈な情熱とエゴイズムを体現し続けた。
  • レビューから
  • 何という凄まじい物語、若尾文子の色っぽさと鬼気迫る情熱は、感動的である。田村高廣も模範兵として祭り上げられていたが、若尾文子の心情に共鳴するあたりも素晴らしい。

略歴

1945.12.1‐
和歌山県御坊市生まれ。父親は東映のプロデューサー、俊藤浩滋。高校時代の62年、テレビの歌謡番組でカバーガールになり、翌年に「八州遊侠伝・男の盃」で女優デビューした。藤純子として時代劇や任侠映画への出演を続け、68年に初の任侠映画主演作「緋牡丹博徒」に出演。彼女が演じた熊本生まれの女侠客“緋牡丹のお竜”は瞬く間に人気を呼び、多くのファンを獲得。以後は東映任侠映画の一翼を担うスターとして活躍したが、人気絶頂の71年、歌舞伎俳優の尾上菊之助(現・七世尾上菊五郎)と結婚して女優を引退。89年に富司純子と改名し、映画「あ・うん」で女優業に本格復帰。以降は「おもちゃ」(99)や「フラガール」(06)などで、助演者として存在感のある演技を披露している。

ここがすごい!

1960~70年代、女侠客・緋牡丹お竜を演じた「緋牡丹博徒」シリーズが大ヒット。凛とした和服姿の色香と颯爽とした立ち回りは多くのファンを魅了し、“任侠スター・藤純子”のイメージを決定づけた。続く「日本女侠伝」「女渡世人」もシリーズ化されるが、26歳の人気絶頂期に尾上菊之助(現・七代目尾上菊五郎)と結婚し、引退を発表。ワイドショーの司会を経て、「あ・うん」(89)で女優復帰する際には“白紙の新人としてスタートしたい”と芸名を富司純子に改めた。改名後は年齢を重ねた女性ならではの強さや可愛いげも魅力となって、現在も第一線で活躍中。1999年には「あ、春」「おもちゃ」でキネマ旬報女優賞を受賞。2007年に紫綬褒章を受章した。

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  • 緋牡丹博徒 花札勝負
  • 熊本生まれの女俠客“緋牡丹のお竜”を演じたシリーズ3作目。弱いやくざ一家を助けて、賭場の利権を狙う強欲一家と勝負する。全6作の中でも評価が高い作品で、高倉健演じる渡世人とのプラトニックな恋も見どころ。
  • レビューから
  • 何も言えない。活劇、任侠の世界、日本映画の素晴らしさが全てある。浮世、無常、その美しさは今なおも色あせることなく、美しい。伊藤大輔、山中貞雄…いっぱい大好きな監督、作品はあるけど、富司(藤)純子の美しさは空前絶後なほど。
  • あ・うん
  • “富司純子”としての復帰第1作。向田邦子の小説を映画化したヒューマン・ドラマで、サラリーマンの夫とその親友の中小企業社長から想いを寄せられる女性を上品な愛らしさで好演。女優としての健在ぶりを証明した。
  • レビューから
  • それもこれも富司純子の魅力と巧さが、高倉健と坂東とのトライアングルを活性化させている。 登場するキャストもキャリアの長い人と浅い人が混在していて、ハーモニーとしては不満足な出来。 やはりベテランというものは、確固たる世界を持っていて素晴らしい。
  • フラガール
  • 炭鉱町で生まれ育った頑固一徹の母親役。フラダンサーを目指す娘と衝突するも、やがてその夢を受け入れて応援する姿には、変わりゆく町自体が重なって見える。物語を支える好演でブルーリボン賞助演女優賞に輝いた。
  • レビューから
  • 蒼井優×富司純子の母娘シーンが好きでした。映画女優!といったかんじの演技と迫力とにじみ出る何か。 彼女たちを見るだけでも価値のある作品ではと思います。

略歴

1940.7.2‐
旧満州新京市生まれ。中学生の時、「緑はるかに」(55)のヒロイン募集に、3千人の中から選ばれて映画デビュー。日活の若手スターとして活躍したが、特に『渡り鳥』シリーズ(59‐62)を始めとする、小林旭とのコンビ作が多い。やがて「銀座の恋の物語」(62)を取っ掛かりに石原裕次郎とのコンビが増え、“ムード・アクション”のヒロインとして君臨。その多くはアクション主体の男性映画だったが、「執炎」(64)、「愛の渇き」(67)など、女の情念を表現した蔵原惟繕監督作品にも主演し、女優として一段の成長を見せた。日活を離れてからは、「男はつらいよ」シリーズのマドンナ、リリー役で最多の4回出演。近年は舞台に力を入れ、精力的に活動している。

ここがすごい!

日活では小林旭や石原裕次郎作品の相手役として活躍。旭とは「渡り鳥」「流れ者」シリーズの全作品でヒロインを演じ、その後の裕次郎との共演では、蔵原惟繕監督の「銀座の恋の物語」「にくいあンちくしょう」などで男に花を添える存在から脱皮。自立した大人の女優へと開眼していった。洋風の派手なルックスでファッショナブルなイメージが強いが、「男はつらいよ」シリーズではべらんめえ口調のクラブ歌手、リリー役で新境地を開き、最終作を含む4作品に登場。「~寅次郎相合傘」(75)ではキネマ旬報女優賞などを独占した。1980年代以降は舞台を中心に活動を続け、長年の功績から2002年に紫綬褒章、2011年には旭日小綬章を授与されている。

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  • 執炎
  • 平家末裔の娘が因習を破って愛する男と結ばれるが、戦争がその愛を引き裂いてゆく。炎のような情念を全身に漲らせ壮絶な愛に生きるヒロインを演じた純愛ロマン。華麗な美しさと熱演で出演100本目の記念映画を飾った。
  • レビューから
  • こんなに一途に激しい愛を見たことがありません。その盲目的なまでに純粋な思いに泣けてきました。演じる浅丘ルリ子が素晴らしい!またその愛を引き受ける伊丹十三の演技も良いです。
  • 愛の渇き
  • 蔵原惟繕監督と6度目のタッグを組み、三島由紀夫原作を映画化。義父と体の関係を持ちながら使用人の若く逞しい肉体にも魅かれてゆく富豪の未亡人に扮し、屈折した愛と欲望をエロティシズム豊かに演じ切った愛憎劇。
  • レビューから
  • 主人公の未亡人を当時27歳の浅丘ルリ子が妖艶に演じている。デフューズの効いたモノクロ映像は息を呑むほど美しく、裸身などさらさずとも十分にエロティックな映画は作れるということを証明した作品。
  • 男はつらいよ 寅次郎忘れな草
  • 11代目マドンナとして、ドサまわりの歌手リリー役で初出演。近年でもファンからの人気が高いリリーは、社会の底辺を流れ歩く女性で、勝気な口調にもいじらしさが滲む。似た者同士の寅さんとの掛け合いが微笑ましい。
  • レビューから
  • 寅さんマドンナのなかでも異彩を放っていたといわれている浅丘ルリ子編。まあ相当な、風来坊ぶりに寅さんもたじたじなところが妙におかしかった。こんな女にも惚れるのよって、寅さんの許容範囲の広さに「笑い」その底に細ンだ何とも言えない哀愁の表情に涙する。

略歴

1920.6.17‐
神奈川県横浜市生まれ。姉の夫・熊谷久虎監督の勧めで、35年に日活多摩川撮影所に入所。「ためらう勿れ若人よ」(35)で女優デビューし、翌年には山中貞雄監督の「河内山宗俊」にも出演。37年からは東宝の女優として活動した。戦後は黒澤明監督の「わが青春に悔いなし」(46)、吉村公三郎監督の「安城家の舞踏会」(47)、木下惠介監督の「お嬢さん乾杯」(49)など、新たな鬼才たちに次々と起用されて人気も急上昇。さらに「晩春」(49)からは小津安二郎映画に欠かせないヒロインとなり、「めし」(51)や「山の音」(54)などの成瀬巳喜男監督作でも成熟した女性を見事に表現した。だが42歳で女優を引退。以後は表に姿を現さず、伝説の女優として今に至っている。

ここがすごい!

古き良き日本女性として小津作品の中の彼女を想い浮かべる方は多いのではなかろうか。終戦の翌年、資生堂のイメージガールに起用されるほど目鼻立ちのハッキリした美貌が魅力だった原は、映画女優としても明るく進歩的な役どころで人気者となる。そんな彼女が1949年「晩春」で初めて小津安二郎と組み、以降、ブルーリボン主演女優賞に輝いた「麦秋」(51)や「東京物語」(53)など6作品に出演。いずれも慎ましくも芯の強さを感じさせるヒロインを演じ、いつしか“永遠の処女”と謳われるように。小津監督が1963年に亡くなると、その通夜の席を最後に彼女も表舞台から身を引き、42歳で引退。清廉なイメージを保ったまま、伝説の女優となったのだ。

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  • わが青春に悔なし
  • 黒澤明監督の戦後初作品で、彼女の役は何不自由なく育った大学教授の娘。学生運動で投獄された父の教え子と結ばれて家を飛び出し、終盤は泥にまみれる農婦となる。ヒロインの波乱の人生を熱演し、強い印象を残した。
  • レビューから
  • 人生の栄華と転落をひとつの作品に纏め上げ、その中で強く生きる女性の性を映し出そうとしている。前半の美しい恋愛の物語より、後半の貧しくて苦しい姿の原節子がいかにもイメージと異なる姿で圧倒される。執念の作品といえるだろう。
  • 晩春
  • 大学教授の父親と二人暮らしの娘の結婚を巡る愛情物語。父を置いて嫁ぐことのできない娘を情感豊かに演じ、毎日映画コンクール女優演技賞を受賞。“小津調”が確立された記念碑的作品で、原にとっても転機となった。
  • レビューから
  • 今改めて観てみると原の自分の縁談や父の再婚に対する露骨な拒否反応など小津作品には珍しく感情を表に出した演技が目立つが、それと本来の小津スタイルが微妙にバランスを保って調和しているのが名作たる所以である。
  • 東京物語
  • 子供たちを頼って尾道から上京した老夫婦に、唯一、 優しい心遣いを見せる戦死した次男の嫁。“日本のこころ”とも言うべき、慎ましやかな愛情と思いやりを体現し、小津監督にとっても自身にとっても代表作となった。
  • レビューから
  • 嫁いだ立場としては、良い嫁像の原節子を中心に血のつながった、そうでない、家族の在り方を考えてしまう。そうなんだよねぇ、と誰もが共感できる「家族の、ある断面」を丁寧に描いた完成度の高い映画。

略歴

1917.2.5‐2012.7.9
大阪府大阪市生まれ。30年、13歳で日活太秦撮影所に女優として入社。同年、「剣を越えて」で女優デビュー。1年目から15本の映画の出演し、数年で瞬く間にトップ女優の座へ駆け上がる。35年、第一映画に転じ、溝口健二監督の戦前の代表作「浪華悲歌」(36)と「祇園の姉妹」(36)に主演。38年には東宝に入社して、成瀬巳喜男監督の「鶴八鶴次郎」(38)、「歌行燈」(43)といった芸道物で絶賛を浴びる。戦後も山本薩夫監督の「箱根風雲録」(52)、成瀬監督の「流れる」(56)、黒澤明監督の「蜘蛛巣城」(57)や「どん底」(57)など、どんなスタイルの監督と組んでも個性を示し、大女優の貫録を見せた。60年代からは舞台に進出し、テレビでも『必殺』シリーズに欠かせない顔としてレギュラー出演した。

ここがすごい!

13歳で映画デビューし、戦前・戦後を通じた女優歴は70年以上に渡る。確かな演技力で、個性の強い役どころでも存在感を発揮。1950年だけでブルーリボン賞は主演・助演女優賞3回、毎日映画コンクール女優主演賞1回、キネマ旬報女優賞2回という受賞歴も、彼女の実力と活躍ぶりを証明している。1960年代からは活動の場を舞台に移し、水谷八重子、杉村春子と並ぶ“三大女優”と呼ばれた。2000年には女優として初の文化勲章を受章。80歳を過ぎても舞台に立ち続けたが、2012年7月逝去。結婚・離婚を繰り返し、娘に先立たれるなど家族には恵まれなかったものの、葬儀には彼女を慕う後輩俳優ら600名が参列。人生を芸に捧げた昭和の大女優を見送った。享年95歳。

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  • 人生とんぼ返り(1955)
  • 新国劇の頭取で殺陣師だった市川段平の半生を描く戯曲の映画化。マキノ雅弘監督による「殺陣師段平」(50)のセルフリメイクに当たり、山田は妻・お春役を続投した。森重久彌演じる段平との夫婦の掛け合いは絶妙の一言!
  • レビューから
  • マキノ作品の女優はいつも魅力的。本作でも山田五十鈴の総ての動作がめちゃ可愛い。左幸子もクセのない演技で可憐さを引き出し、終盤で見せ場を披露している。
  • 流れる
  • 花柳界に生きる女たちの姿を豪華女優陣の競演で描いた成瀬巳喜男監督作。傾きかけた置屋を切り盛りする女将を貫録で演じ、数々の主演女優賞を受賞。美しい所作や三味線を弾く姿に彼女の円熟味と芸達者ぶりが窺える。
  • レビューから
  • 女中の募集に応じた田中絹代と芸者の置屋を営んでいる山田五十鈴の対面から始まる。名前が覚えにくいから、お春さんでいいね、と山田が言い放ち、田中が媚びるように承諾する。冒頭から、使用人に上下関係を植えつける強烈な芝居で印象が深い。
  • 蜘蛛巣城
  • シェークスピアの「マクベス」を下敷きにした戦国時代劇で黒澤明監督との初コンビ作。物の怪によって欲望を触発され、城主を殺してその地位に着くよう夫を唆す…能面のような表情で怪演する悪妻が強烈な印象を残す。
  • レビューから
  • 演技では、山田五十鈴には戦慄を覚えた。能面のような表情で、血の臭いが取れないと、手を洗う仕草は、近寄り難い狂気を孕んでいた。

略歴

1932.8.11‐
神奈川県横浜市生まれ。高校2年生の49年、松竹大船撮影所へ見学に行き、翌年大船撮影所に研究生として入所。「我が家は楽し」(50)でデビューした。すぐに新人のホープとして売り出し、『君の名は』三部作(53‐54)で国民的な人気を得た。54年に、久我美子・有馬稲子らと共に“文芸プロダクション・にんじんくらぶ”を結成。フランス映画「忘れえぬ慕情」(56)への出演がきっかけで、イヴ・シャンピ監督と57年に結婚。その後もパリを拠点に活動し、「風花」(59)、「約束」(72)などで確かな演技を見せたが、彼女の魅力を最も引き出したのは「おとうと」(60)や「悪魔の手毬唄」(77)、「細雪」(83)など、多くの作品で組んだ市川崑監督だろう。

ここがすごい!

人気ラジオドラマを映画化した「君の名は」(53)の大ヒットにより国民的ヒロインとなる。防寒のために頭からストールをすっぽりと被る姿が、ヒロインの名をとって“真知子巻き”と呼ばれ流行するなど社会現象を巻き起こした。しかし清純スターに甘んずることなく、汚れ役にも果敢にチャレンジする芯の強さを見せる。また俳優のための映画製作を目指した「文芸プロダクションにんじんくらぶ」を設立するなど、新時代の映画製作に貢献した。フランス人映画監督イヴ・シャンピとの結婚を機にパリに居住。それ以降は日本とフランスを行き来しながら、女優業だけでなくエッセイや小説、絵本などの執筆もこなすマルチな知性派女優だ。

これは必見 KINENOTEおすすめの3本
  • 君の名は
  • 日本全国をまたにかけたすれ違いメロドラマ。春樹と真知子が出会う数寄屋橋が観光名所になるなど空前の大ヒットとなった。どうにもならない運命に引き裂かれる恋愛を耐え忍ぶ、岸の可憐で哀しげな美しさが光る。
  • レビューから
  • ボタンの掛け違いでどんどん泥沼化してゆく2人の関係。それにしても岸恵子さんの綺麗なこと。本当に美しい。
  • おとうと(1960)
  • “銀残し”手法で描かれる姉弟愛。岸は、恵まれない家庭生活の中で不良になったあげく結核を患う弟を献身的に支えるしっかり者の姉を好演。互いの手首をリボンで結んで眠るシーンは日本映画屈指の名シーン。
  • レビューから
  • 岸恵子の「ゲン」は絶品。ラストの健気さは、映画史に残る名シーンです。
  • 悪魔の手毬唄(1977)
  • 閉鎖的な村で起こる連続殺人事件を描く金田一耕助シリーズの1本。静謐な佇まいの中に凄まじい女の情念を秘める岸の風格は圧倒的。優れた人間ドラマとしても見ごたえがある。ラストシーンが美しくも哀しい。
  • レビューから
  • 金田一耕助シリーズ第二弾。巷間、本作が一番評価が高い。岸惠子と若山富三郎の魅力によるところが大きい。普通続編は、オリジナルをこえることはできないが、本作は違う。

略歴

1986.2.18‐
東京生まれ。俳優・奥田瑛二とエッセイスト・安藤和津の次女で、姉は映画監督の安藤桃子。夫は俳優の柄本佑。父が監督した「風の外側」(07)に主演して、映画デビュー。園子温監督の「愛のむきだし」(09)でストーカーまがいのカルト宗教の幹部を演じて、一躍注目を浴びた。翌10年、「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」で、孤独な若者二人と旅する“ブスでバカでわきがが臭う”母性的なヒロインを体当たりで演じ、キネマ旬報助演女優賞を受賞。12年には三池崇史監督の「愛と誠」におけるガムコ役と、北朝鮮にいる家族への想いを描いたヤン・ヨンヒ監督の「かぞくのくに」のヒロイン役で、史上初となるキネマ旬報ベスト・テンの主演と助演女優賞をW受賞。今や若き演技派として、最も注目される一人。

ここがすごい!

安藤サクラがこれほどまでに注目され、様々な作品に起用されるのは、芸能一家のサラブレッドだからではない。その類まれなる演技力と圧倒的な存在感は、軒並みアイドル路線の20代女優の中で、ひときわ異彩を放っているからだ。父奥田瑛二が監督したデビュー作「風の外側」(07)では、大胆なヌードを披露し、既に演技派女優の片鱗を見せている。「愛のむきだし」(09)の狂気を秘めたカルト信者や「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」(10)でのウザい女など、愚か者からしっかり者まで作品によって全く違う顔を見せてくれる。だが本人はその評価に対して気負うことなく常に自然体だ。いずれにせよ安藤サクラから今後も目が離せない。

これは必見 KINENOTEおすすめの3本
  • SR サイタマノラッパー2
    女子ラッパー 傷だらけのライム
  • 群馬の片田舎でライブ開催を目指して奮闘する女子ラッパーたちの姿を描く。安藤は借金まみれの旅館の跡取り娘を演じ、生歌を披露している。それぞれの心情をリリックに刻むクライマックスがみどころ。
  • レビューから
  • 評価が良いので気になっていたシリーズもの。なかなか手が出なかったけど安藤サクラ目当てで観てみた。観る前は評価しすぎじゃないのとか思ってたけどかなりよかった。
  • ケンタとジュンとカヨちゃんの国
  • 閉塞する日常から抜け出そうともがく若者のロードムービー。バカでブスでワキガという強烈なキャラクターを体当たりで演じた安藤渾身の一作。主題歌が重なるエンディングで見せるクローズアップが白眉。
  • レビューから
  • 安藤サクラさんもうまい!彼女の圧倒的な迫力は、この映画が単調になってしまいがちな展開に楔を打ち込むもので、彼女の台詞、演技はこの映画全体に欠かすことの出来ない存在感をもたらしていましたね。
  • かぞくのくに
  • 25年ぶりに移住先の北朝鮮から帰国した兄を迎える在日コリアン一家の情景を描く。日本で生まれ育った妹が兄のために苦悩する姿をリアルに演じている。車が走り出しても兄の手を離さない別れのシーンは涙を誘う。
  • レビューから
  • この映画をみてすっかり安藤サクラに魅了された。表情がいい。せりふにしなくても、その間と表情が雄弁に感情を語る。監督の手腕も見事だが、安藤サクラの魅力が十分に感じられた。

略歴

1909.12.29‐1977.3.21
山口県下関市生まれ。24年、松竹下加茂撮影所に入所し、同年「元禄女」で女優デビュー。翌年、蒲田撮影所へ移って、島津保次郎、清水宏、五所平之助といった監督に起用され、28年には16本の映画に出演。蒲田撮影所のシンボル的な存在となる。31年には、初の本格的な国産トーキー「マダムと女房」に主演。「伊豆の踊子」(33)、「お琴と佐助」(35)も好評で、38年のメロドラマ「愛染かつら」は記録的な大ヒットになった。戦後は「西鶴一代女」(52)を頂点に、多くの溝口健二作品に主演し、木下惠介監督の「楢山節考」(58)や熊井啓監督の「サンダカン八番娼館・望郷」(74)では、老女を見事に演じきった。また「恋文」(53)を始め5本の映画を監督し、女性監督の先駆けとなったことも特筆に値する。

ここがすごい!

日本映画史を代表とする大女優。黎明期から清純派アイドルとして活躍。日本初のトーキー作品「マダムと女房」(31)で披露した独自の台詞回しが評判となり、松竹の看板女優となる。占領下に日米親善大使として渡米。帰国時の派手なパフォーマンスが一部のメディアやファンの顰蹙を買い、一時はスターの座から転落するも「西鶴一代女」(52)の多彩な演技が高く評価され、演技派女優として復活を遂げた。溝口健二、五所平之助、木下惠介など名匠の作品に出演し、抑制されつつも凄みのある演技で国内外の映画賞を数々受賞した。また日本初の本格的女流監督でもあり、最後まで映画と共に生きた。死後にモデルとした「映画女優」(87)が公開された。

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  • サンダカン八番娼館 望郷
  • “からゆきさん”を取材したノンフィクションの映画化。貧窮と差別にあえぐ晩年のからゆきさんを辛酸を舐めつくした後に達する悟りの境地のような慈愛に満ちた愛らしい老女として演じた。ベルリン映画祭女優賞受賞。
  • レビューから
  • 晩年のお咲さんを演じた田中絹代の見事なこと。見ず知らずの女を粗末な家に上げておいて、ころりと横になったり、真新しい畳に「美しか!」と飛び跳ねて喜んだり。
  • 楢山節考(1958)
  • 姥捨て伝説を舞台のような様式美で描く。貧困の中での家族愛と自己犠牲が崇高な人間ドラマ。田中演じる老母が丈夫な歯を恥じて石臼を噛むシーンは、実際に前歯を抜いて挑んだ。その鬼気迫る演技は鳥肌もの。
  • レビューから
  • 老け役に見事にはまった田中絹代の哀切極まりない演技とともに、木下恵介のそんな老練にしてチャレンジングな語り口が光る余情豊かな伝承譚だった。
  • 西鶴一代女
  • 男に弄ばれ流転の人生を辿る女の悲劇を描く。御所勤めの少女から老獪をさらす娼婦までを演じる田中の芸の深さが圧巻。一度は主君の側室として嫡子を設ける程の身の上から転落。母と名乗れずそっと我子を覗う姿に涙。
  • レビューから
  • 様々な身の上を演じ分ける田中絹代が素晴らしい。10代の頃の初々しさや、華やかな色気を纏った太夫の美しさ。また、見るからに貧相な乞食や、老獪をさらす夜鷹までと、彼女の演技の幅広さは目を見張る。

略歴

1957.12.17‐1985.9.11
東京生まれ。76年、TV『愛が見えますか』のオーディションに合格して、女優デビュー。翌年、化粧品のキャンペーンガールに選ばれて人気者となり、「俺の空」で映画初出演も果たす。78年にはテレビ『西遊記』の三蔵法師役で、その清楚な美しさが注目を集めた。悪女を演じたテレビ『ザ・商社』(80)で女優として一皮むけ、82年には「鬼龍院花子の生涯」で映画初主演。侠客の養女を濡れ場も辞さず体当たりで演じ切り、彼女のセリフ“なめたらいかんぜよ”は流行語になった。この成功によって若手トップの座に就いた彼女は、83年の「時代屋の女房」や「魚影の群れ」、84年の「瀬戸内少年野球団」と着実に力をつけていったが、85年に急性骨髄性白血病を発病し、27歳の若さで亡くなった。

ここがすごい!

デビュー後間もなく、CMで健康的な肢体を披露。剃髪して演じた三蔵法師役の神々しい美貌で人気スターの仲間入りを果たすが、その後は“お嬢さん芸”と評されていた演技力を磨くため、バラエティー番組出演を断って女優業に専念。清楚なイメージを覆す役柄にも果敢に挑み、『鬼龍院花子の生涯』(82)でついにブルーリボン賞主演女優賞に輝く。芝居に対する気迫と執念の傍ら、天性の明るさと気配りの持ち主で『瀬戸内少年野球団』(84)撮影時には、ホームシックの子役たちを気遣い一緒にお風呂に入ったというエピソードも。84年、作家・伊集院静と7年の交際を実らせて結婚するが、翌年、病に倒れ夭折。9年という短い女優人生を駆け抜けていった。

これは必見 KINENOTEおすすめの3本
  • 鬼龍院花子の生涯
  • 高知の俠客・鬼龍院政五郎とその娘の生涯を見つめる養女・松恵役。作品の語り部であり、男たちに運命を翻弄されながらも強く生きる女性を熱演。準備されていた裸のスタンドインを断り、自ら壮絶な濡れ場にも挑んだ。
  • レビューから
  • 夏目嬢の美しさ(裸も含む)も眼福ものでした。“なめたらいかんぜよ”いい科白です。わかっていても、聞いていてゾクゾクしました。
  • 魚影の群れ
  • 過酷なマグロ一本釣り漁に命を懸ける漁師とその娘、娘の恋人の愛憎を軸にした人間ドラマ。海の男たちの仕事を寡黙に支えながらも、その生き様に激しく反発する娘心を、緒形拳、佐藤浩市相手に情感豊かに演じている。
  • レビューから
  • 夏目雅子も演技を開眼した時期で浜の女をのびのびと演じてます。見ていてすっきりしますね。緒形も撮影期間中は漁師と同じ行動をしていたため、リアルな演技が見られます。
  • 瀬戸内少年野球団
  • 敗戦直後の淡路島で野球に夢中になってゆく子供たちと女教師の絆を描く物語。自身も戦争未亡人となり、野球を通じて子供たちとともに希望を模索する駒子先生に扮する。瀬戸内の風景に彼女の凛とした美しさが眩しい。
  • レビューから
  • 映画本編に関してはもはや夏目雅子のイメージしかない。ただただこんな美人が先生がいたらなーというくらい。本作で印象的なのは、とにかくグレン・ミラーの楽曲「イン・ザ・ムード」。
表紙でふりかえるキネマ旬報

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