オクスフォード大学の哲学教師をしているスティーブン(D・ボガード)は、妻のロザリンドが三人目の赤ん坊の出産で、二人の子供と実家に帰っているある夜、書斎でタイプを打っていた。突然急ブレーキの音がし、すさまじい衝突音が続いた。車には教え子のウィリアムとアンナ(J・ササール)が乗っていた。スティーブンが駆けつけた時、ウィリアムはすでに死んでいたが、アンナは放心状態だった。そのアンナを家の中にはこびこみ、間もなくやってきた刑事にもスティーブンはアンナが同乗していたことを告げなかった。昏々と眠るアンナをみつめながら、スティーブンは数ヵ月間の出来事を思いおこした。春の終り頃、スティーブンはウィリアムからアンナが好きだとうちあけられた。スティーブンは紹介を申し出たが、ウィリアムは笑いとばした。数日後、すっかりうちとけてあらわれたアンナとウィリアムにさそわれるままスティーブンは一緒に舟にのった。水々しい、のびやかなアンナの肢体がスティーブンの目の前にあった。スティーブンは眼をそらした。舟からおりる時、スティーブンは目測をあやまり水に落ち、自分の運動神経のおとろえを感じるのだった。次の日曜日、スティーブンの招きに応じウィリアムとアンナは、昼食にやってきた。が、そこへスティーブンの同僚チャーリー(S・ベイカー)もやってきた。粗野で強引なところのあるチャーリーをスティーブンは嫌いだったが、追いかえすわけにもいかず、日曜日は一見おだやかに過ぎていった。夕方、スティーブンはアンナと散歩に出た。が、結局、手をにぎることすらできなかった。予定日が近づきロザリンドは実家に帰った。自由を謳歌すべく、ロンドンに所用で出たスティーブンはかつてのガールフレンドを訪ね、ベッドを共にしたが、むなしい気持が残っただけだった。夜、家に帰ったスティーブンは、そこにアンナとチャーリーを見て呆然とした。二人は以前から関係があったのである。がスティーブンは怒れなかった。チャーリーの中に日毎失なわれてゆく若さへの執着をみたからだった。それから間もなく、スティーブンはアンナからウィリアムと婚約したことを聞かされた。それを告げるためにウィリアムは今日、車で彼の家へ来る途中の事故だったのである。間もなくアンナはオーストリアへ帰って行った。ロザリンドも男の子を産み、スティーブンにはもとの生活が戻ってきた。が、あの“事故”はそれぞれの人の心に、何らかの傷あとを残したことは、確かだった。