【第1部「黒の交響楽」】フランスの或る小停車場で信号機の故障のため列車が衝突した。同じ鉄道の運転手シジフは現場に赴き、母を失った女児ノルマを拾い我が子エリーと共に育てた。十五年の間彼等は兄妹として親しみ、エリーはバイオリン製作を業とし、ノルマは家事をみた。シジフはノルマが日毎に美しくなってゆくのを見て、我が子として育てたのにも拘らず彼女に対して恋心を抱くようになった。思い悩む彼は飲酒と賭博に耽って金銭を浪費し窮地に陥った。ノルマに同じ想いを懸けていた鉄道技師ジャック・ド・ヘルサンはノルマを妻にくれればシジフの家計を助けるというので、シジフは心ならずも涙を呑んでノルマを結婚させる。エリーは或る日家系図を見てノルマが実の妹でないことを発見し、父を責めたが後の祭で如何にもならず父子共に失意の極に達する。シジフは或る日機関車の火夫の過失で蒸気によって火傷を負い、そのため殆ど失明しかけ、機関車を車止めにぶつけて大破させてしまった。【第2部「白の交響楽」】失明したシジフは、支線の登山鉄道に転勤し、山頂の小屋にエリーと共に住んだ。一方ノルマはシジフやエリーが懐かしく、避暑のため夫と共に山麓の旅宿に投じている間、秘かにエリーと会っていた。ド・エルサンは両人の仲を疑い、エリーのもとを訪ねた。嫉妬の余り格闘となり、終に両人共に死んだ。今は全く盲目となったシジフは、悲痛な過去の思い出と現在の不遇に苦しんだが、夫の死後無一文となったノルマがシジフの許に帰って来て父として仕えたので、彼は平安のうちに世を去るのであった。