山狭の徳山村ではダム工事が行なわれていた。静かだった村の道をトラックが砂ぼこりをあげて走りぬけて行く。徳山村に住む伝三は、妻を亡くしてボケ症状が現れはじめていた。離村を余儀なくされている息子の伝六と嫁の花は、ダム工事の手伝いに出かけており、昼の間、伝三は一人である。それがいっそうボケを進めていた。隣人も忘れてしまい、伝六と同衾する花をふしだらな女とののしる伝三を、伝六は離れを建てて隔離する。夏が来て、川で水遊びをする子供たちを見て表情をなごます伝三に、隣家の少年・千太郎はあまご釣りの伝授を頼む。かつて伝三はあまご釣りの名人と言われていた。早起きして出かける二人。伝三のボケは回復に向かう。夏休みも終りの頃、雨の日が続き、再び孤独となった伝三のボケは狂気に近いまでになり、やむなく伝六は、離れに鍵をかけて伝三を監禁した。真夜中に離れで暴れる伝三。千太郎は、伝三に秘境・長者ヶ淵にあまご釣りに連れて行ってくれるようせがんだ。歩きずめで二時間、たどりついた二人は秘境の美しさに目をうばう。そして、伝三に教えられた通りに降ろした千太郎の竿に大ものがかかった。千太郎は伝三に助けを求めるが、伝三は胸をおさえてうずくまっていた。あわてる千太郎を落着かせ、伝三は人を呼びにやらせる。村へと一目散に走る千太郎。その頃、伝三は岩場に横たわり、若き日の美しい出来事を夢見ていた。数日後、小雪の降り散る峠に、村に別れを告げる伝六や千太郎たちの姿があり、花の胸には伝三の遺骨がしっかりと抱かれていた。