色あざやかに白椿の咲く若狭彦神社の境内で、白い衣をまとった八百比丘尼が、今日もまた奉仕の日を送っている。神殿に額づく比丘尼の姿を、奇異の瞳をこらしてみつめる少女と少年がいる。夕焼けの海辺を一人の老人が行く。その皮膚はかさぶたにおおわれ、町の人々からは乞食あつかいにされている。老人は比丘尼を自分の小屋にむかえ入れ、二人の生活が始まった。比丘尼はひたすら老人につくした。老人は、彼女の腕の中で恍惚の吐息をもらし、彼女こそ仏、観音様だと涙を流して死んだ。この小屋に自分を裏切った女を刺したという青年・ウタリが、とび込んで来た。「あなたが殺さなければならない人の代りに私を」と叫ぶ比丘尼を青年は犯しはじめる。異常な興奮の中で、二人はやがて一つになっていく。その時、ふみ込んで来た刑事たちに青年は連行されていった。闇の中に立ちつくす比丘尼、そのすべてを少年がみていた。神社の境内で異常性格の中年の男にいたぶられている若い瞽女を比丘尼は助けた。人生の喜びを知らないその娘は狐つきであった。比丘尼はその娘のために、自らの身体を開き狐を彼女の中にみちびこうとする。二つの白い肌が寂莫の中で美しくもつれ合い、とけていった。翌朝、白みかけた砂浜に若い女の三味線と草履がひっそりと並べられていた。少年はこの光景もみていた。そして、少年は少女を砂浜に連れ出し、おし倒した。怒った少女は、逃げていった。数日後、あの明るい少女の顔が今はなみだでいっぱい。少年は少女に、「痴漢に襲われたぐらいで何だ」、と言い、それに少女が反論、もう死にたいと言い少年はやさしく少女の首をしめてやった。それを比丘尼は見ていた。そこへ、中年男が再び現われ、彼女を海へ誘い出した。そして、自分の秘密を知っている比丘尼を海へつき落すのであった。比丘尼は、竜神の人魚を盗み、その罰として八百年生きなければならなかったが、それは苦しくて、多数の人々の奉仕につくしてきたがこの男の手にかかって死ぬことだけはイヤであった。中年男は、容赦なく比丘尼めがけ、櫓を力一杯ふり下げた。血のような赤い夕日が海を染めた。海岸に立って少年は、海に向って叫んだ。比丘尼、死なないでくれと。赤く激しい沖合いの波が泡立つと、海の中から女の姿が浮び上り、少年のところに近づく。そして一瞬、それは真赤な椿となって花開くのであった。