昭和50年10月14日の鉄道記念日に、北海道で保線区員として三十年国鉄に勤めてきた滝ノ上市蔵は功績賞をうけるために、妻・里子とともに札幌へむかった。妻と一男一女をかかえた市蔵一家の生活はなかなか楽にならない。“マル生”という名の合理化運動は、多勢の仲間をみすてていった。作業は機械化されてきたが、武骨者の市蔵は素直に適応できなかった。昇進試験にも落ちてばかり。わりきれない気持で記念品の時計を市蔵はうけとる。その夜、娘・由紀がボーイ・フレンドを連れて来る。二人は結婚したいと話すが、市蔵は理由にならない理由で結婚に反対し、里子の用意したささやかな祝宴をめちゃめちゃにした。昭和35年、安保の年、国鉄にも近代化の波がおしよせてきた頃、相手の顔も知らないまま、降りしきる雪の日に里子は嫁いできた。あれから十年、狭い官舎で、里子はいつのまにか二児の母になっていた。昭和45年、マル生運動の吹き荒れた年。かつて、保線に同じ汗を流した仲間同志がいがみあい、信頼はもうどこにもなかった。腕や経験による技術では食べていけないなんて、そんなバカなことがあるものか! 市蔵は組合運動の意義を見いだし、里子もまた、そんな市蔵に心からの支援をおくる。息子の徹は、父と同じ外勤の道を選んだ。そして、曲折の末に市蔵は由紀の結婚を祝福するのだった。