昭和十二年、日中全面戦争は火蓋を切った。同十二月、南京陥落、そして、日本軍による大量虐殺。東京。伍代家では長女・由紀子の結婚披露宴が進められていた。由紀子は、青年将校柘植への情熱を胸に秘めながら、父・由介が決めた東亜銀行頭取・雨宮の令息との政略結婚に身を沈めた。一方、次女・順子は、兄・俊介の友人で、反戦運動に激しい闘志を燃やす標耕平と秘かに結婚式を挙げるため、伍代家をあとにした。彼は順子との束の間の愛をかみしめながら入隊、大陸の戦線へと送り出されていく。そして、日本軍の蛮行を目の当りにしながら自分の主義を守りぬくのだった。順子は標の友人達と平和運動に身を置きながら、遠い大陸の標の無事を祈るのだった。俊介は、軍需産業へと転身した伍代の満州支社へ赴任した。だが彼は、身の危険もかえりみず、戦争の無謀さを軍部に説いた。一方、身売り寸前に俊介に救われた村娘・苫は、伍代家で女中として働きながらも、俊介への慕情を断ちがたく、彼を追って単身、大陸へと旅立つ。そして、俊介と愛の一夜を過した苫は、異国の街へ姿を消した……。後介は反戦活動を問われ、同志の田島とともに投獄されるが、やがて、伍代家の威光で、拷問と闘う田島を残して獄から解かれた。自らの矛盾に悩む俊介は、対ソ戦の第一線に一兵卒として銃を取るのだった。昭和十四年。満州と外蒙古の国境ノモンハンで、国境紛争からソ連軍との間に大規模な戦闘が開始された。日本軍は高度に機械化された物量を誇るソ連軍に惨敗。俊介の所属する部隊も、ソ連の戦車軍団によって徹底的に壊滅する。柘植は、砲弾が炸裂する中を、ソ連軍の陣地に斬り込み、壮烈な最期をとげた--戦いというより日本軍司令部の苛酷な命令に従った死の突撃だった。天を焦がすどす黒い硝煙の下、累々と地を覆う日本兵の死体。だが、その中で、俊介は生きていた……。伍代家にも時代の嵐が吹きさんで来た。軍部は巨額の軍費を得るべく、伍代財閥にも圧力をかけ始めたのである。一方、順子には既に、標が死んだとの報せが届いていたが、ある日、ものものしい憲兵隊が、標の順子宛の手紙を押収しに来た。居丈高な彼らの態度から、標が生きていることを知った。彼は抗日運動に身を投じたのだった。ノモンハンの荒野は墓場と化し、生き残った帰還部隊がハイラルの街を行く。放心した隊列の中には俊介の姿もあった。涙にまみれた苫との再会も、彼の疲れを癒してはくれなかった。時に、ヨーロッパでは、ナチスがポーランドを占領。やがて、大戦の炎は、不気味に膨張した日本ファシズムを捲き込んでいった……。