竜光寺真悦の嫁・秋子はろう女性である。昭和二十年六月、空襲の中で拾った孤児アキラを家に連れて帰るが、留守中、アキラは収容所に入れられ、その後真悦が発疹チフスで死ぬやあっさり秋子は離縁された。秋子は実家に帰ったが、母たまは労わってくれても姉の信子も弟の弘一も戦後の苦しい生活だからいい顔をしない。ある日、ろう学校の同窓会に出た秋子は受付係をしていた片山道夫に声をかけられたのをきっかけに交際が進み、結婚を申込まれた。道夫の熱心さと同じろう者同士ならと秋子は道夫と結婚生活に入った。二人の間に元気な赤ん坊が生れた。が、二人の耳が聞こえないための事故から死んでしまった。信子が家を飛び出し中国人の妾となりバーのマダムに収まったころ、道夫は有楽町附近で秋子と靴みがきを始め、ささやかな生活設計に乗り出した。グレた弘一が家を売りとばした。母のたまが道夫たちの家に転がりこんできた。秋子はまた赤ん坊を生んだ。たまは秋子たちのためにねじめを手放した。秋子はその金でミシンを買い内職を始めた。子供の一郎は健全に育ち健康優良児審査で三等賞を受けた。道夫は一郎の教育を考え靴みがきを止め印刷所の植字工になった。が、一郎は成長するにつれ障害者である両親をうとんずるようになった。内職の金をごまかされたり秋子の苦難の日はつづく。刑務所を出てきた弘一がミシンを売ってしまう。絶望した秋子は置手紙を残して家出した。しかし後を追いかけてきた道夫の手話による必死のねがいで、秋子は家に帰った。一郎も優しい気持の子供に変っていった。が、生活は相変らず苦しい。ある日、昔、秋子が助けた戦災孤児のアキラが自衛隊員の姿で訪ねてきた。うれしさに秋子は大通りへとび出した。そのとたん秋子はトラックにはねられて死んだ。激しく鳴らした警笛がろう者の秋子には聞こえなかったのだ。一郎は、貧しくとも美しく生きた両親の慈愛をうけて明日への希望めざしてゆく…。