バーやキャバレーがひしめく銀座八丁目に夕子の経営するバー“冬の宿”もあった。夕子には弁護士を志ざす大学生恵美子がいたが、母娘は互の生活を干渉しないようにと別居していた。そんなある日、店をしめた後夕子はバーの中で突然、自殺を計った。原因は、夕子のパトロン田村が、夕子との色欲にもあきて八百万円にものぼる借金の返済を迫ったためであった。だが発見が早く夕子の命はとりとめた。この事件を知った恵美子は病院に夕子を見舞い、居合せた田村のすすめで、夕子のかわりに恵美子が“冬の宿”のマダムを勤めることになった。学生ママの誕生に“冬の宿”は賑い、バーテンの筧、三木を始め、ホステスの亜紀、秀子、悦子らも恵美子になついた。中でもチーフ・バーテン筧は、美しく清楚な恵美子に強く心を惹かれ、自分への関心を呼ぶため、千数百万円もある未収金回収にほん走した。田村からの借金を返済し、誰にも束ばくされない“冬の宿”で恵美子と共に動くのが筧の夢であった。恵美子が店に出るようになってから一ヵ月が経ち“冬の宿”でも慰安旅行が計画され、一行は東北の温泉スキー場に出かけた。そこで恵美子は思いがけなく、静養にいっているはずの母夕子とバーテン三木の姿を発見して茫然となった。さらにその夜恵美子は同じ温泉にきていた田村から夕食の招待をうけた。田村は借金の代償に恵美子の身体を狙っていた。しかし気のすすまない恵美子は、代りに亜紀を田村の接待として送りだした。はじめは亜紀の出現に不気嫌だった田村も、小悪魔的な亜紀のコケトリーにいつしか心を惹かれいった。一方“冬の宿”では筧が、未収金の強固手段がわざわいして恐喝容疑で逮捕された。帰京した恵美子は筧のことで奔走し、その夜夕子とおちあって“冬の宿”に向った。が、そこには“冬の宿”のネオンはなく真新しい“亜紀”の看板が夜空に映えていた。