ある商事会社の宣伝部員浅井は、子供がないこと以外なんの不満もない生活を送っていた。だが結婚生活も十年、何か新しい刺激を求めていた。そんなある日浅井は、取引先の印刷会社の小柳社長に誘われて、バー“ジョルダン”に行った。そこのホステス、マチ子の、洗練された着物趣味は、デザイナー浅井の心をつかむのに十分だった。店がはね、マチ子をアパートに送った浅井は、激情のおもむくまま、彼女を抱いた。一方、小柳老人もヌードスタジオの少女マユミに惹かれ、老いらくのアバンチュールを楽しんでいた。そんなある晩、浅井は小柳の招待で、妻道子を伴ない、料亭からクラブへと足をのばした。道子は書家としてその名を知られていたが、浅井から見れば、所詮古典的なイメージの強い女性だった。だが、あでやかに振舞う道子は、浅井に新鮮な印象を吹き込んだ。やがて、浅井は宣伝部長に昇格し、日頃「あなたの子供を産みたい」と言っていたマチ子は、清水市の病院で女児を出産した。浅井は子供が生まれた文化の日にちなんで文子と命名した。ところが、浅井が清水から帰ると、今度は道子が妊娠したと言いだした。妻には子供ができないと信じていた浅井にはショックだった。同じ頃、小柳はマユミが自分の子供を出産してくれたと有頂天になっていた。初夏になり、文子を連れだってマチ子が上京した。だが、二人の関係は以前のようにしっくり行かなかった。やがて、道子も予定通り出産した。マチ子はそれを知ると子供を預け、再び働きに出るようになった。それから一年半が過ぎた。道子の書が日展に入選したという喜びの直後、浅井は急性盲腸炎で倒れ手術をした。そんなある日、文子を連れて見舞に訪れたマチ子は、道子と鉢合わせしてしまった。道子はその場で、マチ子の産んだ子が浅井のものではないと言い張り、マチ子は手切金三百万円を要求した。退院の日、浅井は道子から意外な言葉を聞いた。自分の子と思っていた義道が、実は人工受精によって授かったというのだ。動揺した浅井はマチ子を訪れ詰問した、取り乱したマチ子は浅井の上司に、二人の関係を暴露した。途方に暮れた浅井は、小柳に相談したが、彼はマユミに逃げられた直後とあって、役に立たなかった。結局浅井は上司中西常務の仲介で二百万円でマチ子との関係を絶った。それから間もなく、浅井はデパートで、関係浅からぬ人妻千鶴子に会った。そこで彼女から、今連れている子供が浅井のだと言われては、浅井は自嘲的な笑いを禁じ得なかった。