元和元年夏。肥前佐賀城主竜造寺高房は、家臣鍋島直茂の謀反により無残な最期を遂げ、また高房の妻清姫は日頃可愛がっていた猫とともに、沼に入水自殺を図った。それから十年、城主となった直茂は女狂いに明けくれる毎日を送っていたが、ある日、小普請支配役の津山の娘雲路に目をつけた。しかし、雪路には結城丈之介という恋人があった。丈之介は雪路とともに脱藩を図ったが、見破られて惨殺された。ちょうど、十年前に清娘が自殺した沼のそばである。二人が殺された時、何処からともなく現われた猫が、その死体を隠してしまった。この奇怪な事件は直茂の耳にも入り、直茂は手当り次第に女中を無礼討ちにするような狂態を示した。佐賀城は、それ以来、猫の怨霊にとりつかれてしまった。年寄日向の局が死体を食ったり、直茂の寵愛する女たちが次々と変死を遂げていったのである。一方、直茂に対する謀反をたくらむ家老の主膳は、娘の百合を大奥に差し出そうとしたが、それを嫌がる百合は秘かに自害した。しかし、百合の死骸のそばに現われた猫が彼女に乗りうつると、たちまち息を吹き返した。百合はそのまま大奥に上った。その頃、直茂の子千代丸と中頭小夜が原因不明の熱病に冒され、小夜は絶命。たまたま百合から、熱病は千代丸の母親おりんか猫にたたられているからだと知らされた直茂は、おりんを斬り殺してしまった。また、主膳はそんな直茂に斬りつけたが、逆に殺されてしまった。しかし、すでに乱心の極に達していた直茂は、自らの手で千代丸を斬り、何者かに誘われるように沼の中に入っていくと、断末魔の声を残して死んでいった。