とある裏通り、銀行帰りの女が足早やに通りすぎる。次の瞬間、女は後ろから突き倒され、小さな包はその男の手に握られていた。あっという間の白昼の出来事だった。--男はメッキ工場に働らく恵一。三日前、彼は会社の集金に駈けずり廻っていた。その時、幼い頃の恋人あさえの良人である三村に出会った。あさえが病気だと泣きつかれ、恵一は集金した六千円を貸した。しかし、奔走もむなしく金は出来なかった。思い余って銀行帰りの女を襲ったのだ。が、公金を流用したことが知れ彼はクビになった。ある日、恵一は親友浩介のアパートで保姆を見た。犯行の日、コンクリート塀を越えた時立っていた女だった。彼女はみや子といった。恵一は哀願した。みや子は自首を勧めた。そしてその日まで、事件は二人の秘密にすることを約束した。みや子は恵一の素直な一面に惹かれたのだ。しかし、貧しい家庭や幼ない弟たちのことを思うと自首もできない。恵一は荷役の日雇いとして県命に働いた。みや子は、貯金五千円をおろして元通りの二十八万円とし被害者に直接手渡すことを提案した。恵一はダイヤルを廻した。だが、被害者を電話でからかう犯人として三面記事を賑わしただけだった。ある日、恵一は酔っぱらっている三村をなだめているあさえに会った。三村はウソをついたのだ。新聞は容疑者として十八歳の少年が逮捕されたことを告げた。恵一はみや子に自首する決意を告げた。自首の前に被害者に会い金を手渡した。女は「強盗!」と思わず口走った。人々が殺到、恵一に手錠がはめられた。街路樹の陰で立ちつくすみや子の胸には、いいようのない怒りと悲しみがたぎった。