劇作家杉守修三は、結婚して十余年間苦節を共にして来た妻里枝を失った。彼の所属する芸文座の人々によって通夜の行われた夜、彼は同座の研究生夏川文子の存在を知った。文子は東北蔵王山の麓の町の酒造家の娘であったが、山手学園に通学しているといって、ひそかに芸文座の研究生になっていた。演出助手の荘司は文子に好意以上のものを寄せていたが、彼女の目あては杉守であった。酒ずきの杉守のために家から取寄せた酒を贈ったりして積極的に彼に近づいて行った。芸文座のスタア神近須英子は、かつて里枝と杉守を争って破れた苦い経験があったが、今も彼に対する友情は変らず、妻を失った杉守をなぐさめ、何くれとその身辺の世話をしようとするが、そこへ若く、積極的な文子が割込んで来て彼女をおどろかせた。そして、秋の芸術祭参加作品の脚本を書くことになった杉守を文子はさらうようにして自分の郷里の温泉へつれて行った。杉守は静かな温泉で、須英子を主役に心に描きながら脚本を書いて行ったが、いつの間にか、そのなかに文子のもつ若々しい息吹きがとけ込んで、須英子のイメージを消し去るのだった。ついに杉守は帰京して須英子を訪ね、新作の主役を文子にやらして欲しいと頼み、文子の訓育を彼女に托した。須英子は杉守への愛情からそれを引受け、文子に厳しい訓練の日がはじまった。ついにその苦しさに堪えかねた文子は「杉守先生に愛される私が憎いのでしょう」と口走って須英子の家を飛び出した。文子の行った先は荘司のところだった。酔ったあげく、総てを彼に捧げてしまった文子は、早速杉守の迎えにも応じなかった。蔵王に帰った杉守は、自分を燃え立たせてくれた情熱の火の消えたことを悟って唯一人山に向かって慟哭するのだった。