東京の保険会社に勤める独身の三田は、組合側に加担して重役を殴り、大阪に左遷された。彼が首にならなかったのは、親友の田原が多額な保険金を契約しているからであった。三田が下宿した安旅館酔月荘にはおりか、おつぎ、お米という三人の女中がいた。甲斐性のない亭主を持つおりかは同宿の人達の金を盗み酔月荘を追放されるが、三田は就職等いろいろ面倒をみてやった。おつぎは忙しく働かされて一人息子に会う暇もない。十四の時から男を知っているというお米は、三田を口説きにかかるが、とっつき難さに愛想をつかす。毎夜遅くまで内職の飜訳をしている三田の許へ南地の芸者うわばみが訪ねてきて、大酒を飲む。田原に誘われて飲みに行って以来の知り合いで、彼女は三田を愛していた。しかし二人の関係は友人以上には発展しない。三田には秘めた片想いの恋人がいたのだ。通勤の途中、御堂筋のポストの所で必ず会う女事務員である。彼女井元貴美子は田原の先輩で大洋々行を経営する井元の娘である事をつきとめるが、井元は三田の会社の支店長に浮貸を取立てられて自殺し、大洋々行も閉鎖したので、貴美子も行方知れずとなった。憤慨したうわばみは或る酒席でこれを暴露し、三田は再び支店長と喧嘩して東京の本社へ追放されることとなる。酔月荘も時流に抗しきれず、おかみは温泉マークの連れ込み宿に改造する決心をし、おつぎは迫出され、お米は女中とも商売女ともつかず働く。止宿人も宿変えを迫られる。三田は商業都市大阪の生んだ不幸な庶民、おつぎ、おりか、うわばみ等に見送られながら、感慨をこめて大阪を後にした。