東北の雪深い寒村から上京した織本初は、かつての修学旅行の時の僅かの縁を頼りに、加治木家の女中になった。加治木家の主人恭平は日東時計の総務部長で、家族は梅子夫人の外、長男雪夫、次男勝美、梅子の姪の野村ひろ子などがいた。最初はすべて田舎流で家族達から笑われた初も、一生懸命に働いて次第に馴染んで来た。中でも家中から嫌われていたひねくれっ子の勝美はすっかり初が気に入った。初は勝美がこっそり母親に内緒で仔犬を飼う手助けをしてやった。夫人の合オーバーが紛失したが、これは勝美が仔犬の寝具に使ったのであった。やがて仔犬の一件は犬嫌いの母に知れたが、初の口添えでそれも許され、汚れた合オーバーをひそかに自分の箪笥の奥深く隠して始末したのも初であった。勝美が学校でいざこざを起こしても初が出掛けて解決するので、勝美は「女中ッ子」などと冷かされるようになった。旧正月の休暇で初が帰郷したので勝美は淋しかった。而も仔犬のチビが梅子の草履を噛んでクチャクチャにしたので捨てられてしまい、ゴム長をはいた勝美は東北本線に乗って初のところへ一人で行ったりした。丁度帰京する初はそれを知り勝美を連れ帰った。数日後、捨てられたチビも戻って来た。梅子はチビのためにボロキレを探そうと初に与えてある箪笥の引出しを引っくり返すと紛失した合オーバーがあった。初は勝美の仕業であることを打明けずそのため暇を出されてしまうことになった。最後の別れに初は勝美を学校に訪れたか、何も知らない勝美は「女中ッ子って言われるから学校へ来るなよ」と素気なく教室に消えてしまった。初は淋しく故郷へむかう列車に身を置いた。