伊勢の国は吉良港の侠客仁吉は、同じ侠客安濃徳次郎の女房おまちの妹おきくを妻として、まだ三月。人も羨む仲のよさ。仁吉は若いに似合ず腕と度胸のよさで街道一の親分になるものと嘱望されていた。子分の、ちょんがれの安が、恋人お花のことで鐘鬼一家の身内と喧嘩、提灯政五郎を心ならずも殺した事件が起ったが、仁吉は槍ブスマで構える鐘鬼一家に乗込み、血を流さずに事件を解決した。ところが、この幸せな仁吉夫婦に思わぬ危機が訪れた。仁吉の弟分、神戸の長吉と安濃徳との間に荒神山の高市の盆ゴザ開張をめぐりイザコザが起ったのだ。徳次郎の手紙には、長吉が譲ると云い出したというのだが一方の長吉の言分は、徳次郎が貸元衆の尻押しを力に縄張りを奪ったという。長吉は仁吉に助力を頼んだ。安濃徳を訪ね事情を聞いた仁吉は、非を改めぬ徳次郎に怒って帰った。が長吉を助ければ徳次郎に義理が立たぬ。遂に仁吉は恋女房おきくを離別した。仁吉の家には、たまたま暴れすぎて次郎長に大目玉を喰った大政、小政ら二十八人が居候にきていたが、いつの間にか仁吉の苦衷を知って応援を申出た。次郎長の許可を得た二十八人は仁吉と長吉の味方となり、一方の安濃徳も黒駒の勝蔵らを味方にして荒神山で対決することになった。荒神山に、じりじりと近づく両軍。忽ち乱戦となるが、仁吉は長吉を助けて安濃徳に迫る。仁吉が安濃徳を斬りたて、あわやというとき、木陰から射った伏兵の弾丸は仁吉の体を貫いた。駈け寄る清水の二十八人衆。心配して駈けつけたおきくもびっくり。安濃徳も思わず近寄った。「おきくを頼む」を最後の一語に仁吉は、今は涙もかれたおきくに笑みを浮べて息を引取った。