夜も更けて、安宿のくぐりを開けて入ってきた旅人姿の男いろはの伊四郎が、ふと二階の気配に駈上ってみると、一人の侍が殺されている。傍に立ちすくむ一人旅の娘お才に聞くと、酔態で挑まれ争った結果の過失とのこと。そこへ笠松戒三と名乗る侍が飛込み、“同僚の仇”と伊四郎に斬りつけた。些か慌てたが伊四郎、得意の蹴手繰りでお才を連れて逃げ出した。が、このため彼は殺された侍鹿毛平助の弟平之助に追われる身となった。しかし笠松らも勤皇志士として岡っ引に追われる身。そして、お才を狙う物騒な二組さえいる。一組は松伏の源太郎一家の狩鞍の門次郎たち。もう一組は代官古渡の腹臣間角与右衛門に傭われた志棚、黒館の浪人。ともに、お才の美貌に目をつけた親分のために彼女の後を追っていた。こんな連中に狙われながら旅をつづける伊四郎とお才。お才の胸には伊四郎の面影が灼きついていった。だが一人の母が待つ桐生へ帰る伊四郎は、従兄和之助を頼って行くというお才と右左に別れなければならなかった。伊四郎と別れたお才は沼田へ着いたが待伏せた志棚たちに捕われた。一方、伊四郎は山道で捕吏に囲まれた笠松を助けたことから鹿毛平助の死因について一切が氷解、度胸を見込まれ軍資金五百両を同志へ届けるため引返すことになった。途中、彼は平之助に追われるお才を見て後をうつけたが、その間に五百両を、現れた志棚に奪われた。一方、お才は平之助から逃れ船宿を鳥追い姿で流すうち、とある座敷へ呼込まれたが、そこでは盗んだ五百両で間角、志棚らがドンチャン騒ぎをしていた。お才は一計を案じ五百両を盗み逃出すが途中会った渋川親分の娘お辰から“伊四郎と夫婦約束の仲”と聞かされ、自分の恋を諦め、五百両をお辰に預けるや追ってきた門次郎に体を投出した。お辰から仔細を聞いた伊四郎は感泣した。数日後木更津の町を松伏一家に守られたお才の花嫁行列が行く。と、突如そこへ間角一味がお才奪回に現われ大乱闘。その真只中へ三度笠の男伊四郎が躍りこんできた。伊四郎は駈けつけた笠松の協力で間角、松伏を倒した。翌朝、花嫁姿のお才を乗せた馬の手綱をひく伊四郎の姿が見られた。