江戸に、人を斬っては「花」のはり紙を残して消える、遊び人風の怪盗が出没していた。みずから花太郎と名乗った。目明し花屋勘兵衛の娘お美年は「花太郎地蔵」の境内の石垣に地下道を発見した。奥で天井から逆さに吊るされた老婆から銀の小鈴を花太郎に渡してくれと頼まれた。その時二人の黒覆面から襲われたが、三四郎という男が現れ、救ってくれた。父の勘兵衛の話では、二百年前関東の兇盗花太郎を、土地の豪族江戸小源太が滅し、この地蔵を建立したのだという。--三万八千石金森家に、始祖江戸小源太の遺言で、三個の銀の小鈴と家督とを嫡男の花太郎と名づけられたものが継ぐというならわしがあった。若殿金森源之丞は手許に一箇しか鈴がなく、名前も花太郎ではなかった。用人柴田の言によれば、花太郎という彼の兄はその乳母と共に二十数年前行方不明になっていた。源之丞に花太郎のことから手を引けと命ぜられた勘兵衛は、その帰途何者かに連れ去られた。それは柴田一味の仕業で、美年の持つ鈴を狙っているのだ。三つの鈴には三百年の財宝の秘密が隠されていたのだ。一味は更に美年を誘い出し、家に火をかけたが、三四郎の出現で、鈴と美年は無事だった。彼が自分の宿“舟友”で事件の次第を美年から聞いていると、金森家の腰元お徳が現れ、彼女の伯父唐人飴屋の呉竜角が勘兵衛探しの糸口を握っていると告げた。源之丞が舟友へ遊びに来、花太郎の射かけた矢から救ってくれた美年に、屋敷へ来るよう頼んだ。三四郎は旗本榊原家から家へ帰ってくれと言われていた。彼は捨て子で、榊原家に拾われ鶴世の兄として育ったが、自分の素性を知ろうと出奔したのだ。鶴世は父の病気と源之丞の彼女への婚約申込を知らせてきた。お美年は「鈴を持ったまま金森家の屋敷へ行ったから」と伝言して姿を消した。三四郎は呉竜角の知らせで地蔵の地下で勘兵衛を助けだした。柴田一味を倒した後、三四郎は鈴と一通の書状を手に入れた。それで、彼は自分が金森家の嫡男花太郎なのを知った。金森家に柴田の手引で花太郎が押し入り、鈴を手に入れ、美年をも連れ去った。帰りがけに柴田を斬って行った。三四郎は自分の鈴と代償にお美年を救った。花太郎とは二百年前の花太郎直系の子孫呉竜角であり、お徳は彼の情婦だった。お徳は呉竜角に殺された。呉竜角は三個の鈴を持ち、金森家へ乗りこみ、跡目相続をしようとしたが、三四郎が斬倒した。三個の鈴は地下道の財宝の箱を開く鍵だった。三四郎は源之丞に跡目をゆずり、鶴世と共に榊原家へ帰った。