キクは小学六年生だ。からだは人一倍大きい。村一番のおテンバである。ガキ大将の少年もかなわない。弟のイサムは四年生だ。これも相当なワンパクなのだ。しげばあさんは孫の姉弟を乳呑児の時から育ててきた。もう二人はばあさんの手におえない。初秋のある日ばあさんはキクに野菜籠を背負わせて町へ連れて行った。病院で診察を受けるためだ。キクが野菜を売り歩くと、人々の好奇の目が集った。病院でも--キクは一向気にしなかった。ばあさんから貰った十円で行商の雑貨屋から赤いくしを買うと楽しそうに先に帰った。ばあさんは診療を終えた院長に二人のハーフのことを問わず語りに話した。院長はアメリカの家庭へ養子縁組の世話をするところへ頼んであげるといった。--カメラを下げた見知らぬ男が村へ現れ、仲間と遊んでいたイサムの写真をとった。キクの方は舌を出して逃げた。が、その夜キクは気になって、その男のことをばあさんにたずねた。姉弟のどちらかを養子縁組するのだという。キクはいやだった。しみじみさびしかった。--イサムは学校で友達から「クロンボ」とののしられた。「おら、クロンボでねえど」友達の頭をガンとなぐった。--秋祭だ。となりの清二郎夫妻に連れられて鎮守の森へ行った。見物の衆がみんなキクとイサムにたかった。見世物の連中は商売にならぬと怒った。イサムはまた友達とケンカし、ムキになって見世物の棒の足場へ登り、大騒ぎになった。外務省から知らせがきていた。イサムがアメリカの農園主に引きとられるという。イサムは疲れて眠っていた。出発の時、写真の男に連れられて、黒白のハーフたちの汽車に乗りこんだあとで、イサムは急に不安になった。「おら、いくのやンだ」写真の男がイサムをおさえた。「姉ちゃーん、ばあちゃーん……」イサムは必死に泣きわめいた。キクもわあわあなきながら、汽車を追って夢中で走った。--キクが子守していた赤ン坊が行方不明になる事件が起きた。友達に「売れ残り!」などとはやされ、夢中で組み打ちをしていた間にである。村中大騒ぎになった。キクが出発する芝居一座のオート三輪の上に置いたので、そのまま走って行ったことがわかった。子の母はタチの悪いいたずらと見た。ばあさんは思いあまって、村人たちの前で、キクをなぐった。「お前は、やっぱり尼寺サ行け……」考えあぐねた末のことばをしんみり言って聞かせた。キクはしょげた。--夜明け。キクがいなかった。納屋の前に赤いくしが落ちてい、中にキクがポカンと立っていた。梁から縄をつるしたが、重くて切れたのだ。「キク……バカタレ……」ばあさんはキクにしがみついてたたいた。そして、キクはその時、大人になっていた--。ばあさんは赤のご飯をキクのベントウにつめた。「お前をどこにもやんねえ。ばあさんと一緒にいてエつうなら一人前の百姓になれ」ばあさんはキクを上の小豆畑に連れて行った。登校する子供たちがからかっても、「年頃だからナおら。かまってやらねえじエもう……」キクはそっくりかえって歩いていった。