狸御殿のきぬた姫は、まだ見たこともない隣国満月城の若殿狸吉郎との強制的な政略結婚をきらい、誕生日を前にして、御殿中のさわぎをよそに、姿を消した。生れて始めて御殿を出た姫の眼には見るもの聞くもの珍らしく、やがて淋しい原にさしかかると、山賊に襲われ、あわやというところでクモの巣谷へ落ち込んだ。この谷には美しいもん白のおもも落ち込んで捕われていた。姫とお蝶が、今しも女王グモに喰われようとした時、天の助けか、偶然、この谷に迷い込んだ旅の若侍、狸千代に助けられた。一方、御殿では姫の未来の婿君狸吉郎も到着、上を下への大騒動だが肝心の姫がいない。そこへ、かねがね狸吉郎に憧れていた城下の宿屋つづみ屋の女中お黒が、一ト目狸吉郎に逢いたさに御殿へ忍び入ったのを見つけて、姫に生き写しだというので窮余の一策、ニセ姫に仕立てられた。何も知らない狸吉郎はお黒が大変気に入り、すぐ仲よしになった。一方、城下町を見物していたホンモノの姫は、つづみ屋の亭主からお黒と間違えられ、宿へ連れ戻されて女中働きをさせられるハメになった。ある日、つづみ屋に旅装をといた狸千代と再会、二人の間にはひそかな思いが芽生えた。やがて年に一度の「狸祭り」の日、行商にやらされた姫は御殿の家老や家来につかまったが、辛うじて逃げ帰って来た。この場の様子を見ていたもん白のお蝶は、女中の正体を狸千代に報告、姫は狸千代から、御殿に帰って立派な女王となるようさとされて、御殿へ帰ることになった。父阿波守の喜び、狸千代に対する誤解の一幕もあったが、心の寛い狸吉郎は姫と狸千代の間柄を知り、二人を祝福する。解放されたお黒が、想い出も悲しく立去ろうとした時、その肩にやさしく手を置いたのは、勿論狸吉郎だった。