特異児童、それが中山勘太だった。三回も学校を替わって、その新しい学校でも受け持ちの先生が手を焼いている。どうにも導きようのないくらい物覚えが悪く、どんな先生が受け持っても、日ならずしてサジを投げてしまう。可哀想な子、両親さえ持て余して、勘太の顔を見るたびに深いタメ息をつくのだった。それだけに親とすれば、一しお可愛い勘太であった。なんとか勘太を育ててくれる先生はいないものだろうか。父と母の話が、二口目にはその事に移っていくのである。ところが突然、父親は気になる勘太を母一人の手に残して召集される。母はあわてた。そしてもう何回となく足を運んだ小学校の門を、今日は一層沈うつな面持ちでくぐった。だが母親にとり、いやそれ以上に勘太にとって何という幸運だったろう。松村訓導という児童の心を良く知った先生がいたのである。松村訓導は児童の教育に恐ろしい程の熱を持っている。子供を育てるのに理屈は入らぬ。ただ大きな愛情が必要なのだ。児童を愛さなくて、どうして導いていける!松村先生は自信を持って、その温かい胸に勘太を抱いた。いやでいやでしょうのなかった学校が、勘太にとって面白い所になって来た。大好きな松村先生がいるし、自分に色々と親切に教えてくれる級長や奥村君や外にも大勢友達が出来た。勘太はうれしくて仕様がない。夢にさえ学校のことが浮かぶのである。毎朝小使が校門を開けると、もう勘太がカバンを肩から下げて、ニコニコしながら立っている。何という変わり方だ。松村訓導のやり方は適切を極めたものだった。もう大丈夫と思っていた矢先、困った事に山田金三という札つきの悪童が同じ組に入って来たのである。金三にとって勘太の存在は全く手ごろなオモチャであった。事毎に、山田は寛太をいじめた。面白いのである。下級生の子分どもを集めてはあくどいいたずらを始めた。しかし寛太の善良さは、山田の悪意を読みとろうとしないのである。山田にはそれが寧ろもの足りなかった。いたずらをしても一向手応えがない。山田はいらいらする。もともと山田金三も孤独で不幸な子供だったのだ。松村訓導はそれをよく知っていた。級長の奥村を呼んで寛太と山田の事について色々相談した。生徒の協力が絶対必要だ。そして松村訓導と生徒達の、愛情と共同の力は、やがて寛太を人並みな生徒にし、山田の意地悪な性格を素直な人間にのばしていく。