正月興行を二三日後に控えた太陽劇場に鶴十郎の幽霊が出たという騒ぎが起こった。十年前、人気役者嵐鶴十郎は芸道の事で当時の劇場主中谷から意見されたのを恨んで三階の楽屋で自殺をした。その幽霊が出たというのである。又中谷もその鶴十郎の幽霊に悩まされて死んで行き、現在の劇場の権利は木塚専三の手にあった。元旦が初日で舞台稽古に張り切っていた“こまどり座”の中には中谷の娘よし子とあつ子の姉妹も混ざっていて父の劇場であったこの小屋での初舞台を楽しみにしていた。その二人へお父さんは自殺ではないとなぞの言葉をささやいたのは大道具の宗吉である。一方劇場には先程背景係をクビになった名探偵の多羅尾伴内がこんどは建築技師となって劇場の視察に乗り込んでいた。舞台稽古が始められるが舞台の床板が落ちて一座のみや子が怪我をする。楽屋にはどこからともなく人の足音が聞こえたり、笑い声やらうめき声が聞こえたりして奇怪な事が続く。一座の演出家川上は前後の事情から宗吉を犯人と睨むが、問題の宗吉はロープで首をくくり、伴内の医者が乗り込んだ時には既に死んでいた。その翌日中谷姉妹の許へ公証人が現れてこの劇場は近くあんた達のものになると告げて帰って行った。公証人が伴内であった事は姉妹には勿論判らない。それから程なく伴内は私立探偵として宗吉の死因調査に劇場に現れた。伴内のするどい追求に木塚専三とその部下の森川雄三、田内文吾の顔色は変わって行く。伴内は一切の疑問は除夜の鐘を待たずに解明されると断言する。劇場の秘密の通路で鶴十郎の幽霊と伴内とは相対じした。格闘の末幽霊は伴内に倒された。幽霊は木塚の手先となって働いていた山本であった。前劇場主中谷を殺し自殺と見せかけ、登記書類を偽造し劇場乗っ取りに成功した木塚一味の悪行は伴内の手によって暴かれた。