昭和20年華中戦線。歩兵一個大隊が、ある県城を守備していた。今し討伐から帰った一隊の中に先ごろ敵の捕虜となった三上上等兵と、慰問団の女春美が混っていた。三上は報告書とともに軍事裁判所へ回されることになった。報告書によれば「三上は春美と情交をなしその上、敵襲のあった夜春美と共に脱柵を企て敵陣に投降した」というのだ。その罪名は脱柵、逃亡、奔敵、兵器遺棄、通敵……と重なっていた。だが真実は--二ヶ月ばかり前春美たち慰問団の帰りを送るトラックは途中敵襲にあい、また県城へ引返した。そのとき三上は警乗した軽機の射手だった。春美はそのとき奮戦した三上をたのもしく思った。慰問団はそのまま足止めされ、部隊の酒保に宿泊して手伝いをすることになった。副官成田中尉は春美に目をつけ、その階級と権力にものいわせ、春美をわがものにしようと、毎夜酒保にやってきた。そのころ三上は副官の当番となった。春美は副官を毛嫌いし三上に愛情をもつ。その烈しい恋情に三上も心がうごき、ある夜酒保の裏で、二人ははじめて相擁した。が、そのとき巡察将校に見とがめられ、営倉送りときまった。だがちょうどその夜敵襲があり、軽機の射手不足から、三上は充員された。春美は、身の危険を忘れて、防戦する三上の姿を求めた。が、三上は城外で敵弾にたおれ、戦友は彼をおいて後退した。それを知った春美は身をひるがえして城外へ出た。「三上!」彼女は三上の傍にぴったりとついて、彼と共に死のうと思った。三上の帯剣は春美の手に握られ、今、自刄、というとき二人は中国兵に囲まれていた。三上が意識を取もどしたのは中国軍の陣営であった。軍医や将校は彼をやさしく扱った。が、三上は狂いそうだった。軍人直諭をとなえ、身もだえして脱出しようとした。春美ははじめて三上と二人になれ、中国将校の理解ある処置により、再び県城へは帰りたくないと思う。だが三上の気持は変らなかった。そのため傷の全快を待たず、三上は帰されることになった。三上は信じていた「自分は投降したのではない、傷ついて意識不明だったのだ、中隊長も副官も判ってくれるだろう」と。だが、見事にそれは裏切られ、今、報告書とともに送られる身であった。三上ははじめてか酷な日本の連隊のありかたを知った。ちょうどそのときの衛兵司令はもとの班長小田軍曹であった。彼はひそかに春美を呼んで三上と会わせた。今にして三上は春美のほとばしる愛情を知った。生きたい!逃げよう!二人は城外の沙漠へ逃走した。小田軍曹はゆっくりと時間をとって非常ラッパをふかせた。副官は城壁にかけあがると気違いの様に、逃げていく二人に向って機関銃の弾を浴せた。沙漠に、二人のしかばねは折重って、倒れたのだ。三上の死亡証明書には、簡単に戦病死としるされた。