マンション住まいの一組の若い夫婦。ある日妻が犬を飼いたいといいだすが、マンション暮らしのためそれは実現せず、替わりに亀を飼うことになる。妻の歯列矯正の治療が終わった。それと前後して夫の仕事が多忙となり夫婦の時間は急速に減っていく。妻は亀を散歩に連れていくことなどで、退屈な一人の時間を埋める努力を続けるが、徐々に精神のバランスを崩していった。ある日編み物をしている最中、彼女は自らの手を縛っている自分に気づく。それをきっかけに、あらゆるものを“縛りたい”という欲求にとらわれた彼女は、本、ハサミ、ワープロ、そして亀…と、部屋中の物という物を縛ってしまった。部屋の扉まで縛ってしまった妻に、夫は当惑する。2人してカウンセラーに診てもらったところ“強迫性緊縛症”の診断を受け、夫が妻を精神的に縛っていることが原因では?と指摘を受ける。だが妻の行為の動機はその逆、自分をかまってくれない夫に対して“自分を縛ってほしい”という願望の現われであった。彼女の症状は悪化していき、空気、午前中、土曜日など目に見えないものまでを縛ろうとしはじめる。そして夫は「私を縛ってよ」と乞う妻を、縛り始める。「もっと強く縛ってよ」。言われたままに、夫は強く強く力をこめていく。だが物理的に縛られることによっても、妻の願望は満たされなず、彼女は家を出てどこかへ姿を消してしまった。