東京近郊に住むその男は、都会からホームレスの老人たちを連れ去り、“囲い屋”と呼ばれる簡易宿泊所に住まわせ、生活保護費をかすめ取る仕事をしていた。まるで豚小屋のようなところにすし詰めにされ、家畜のように扱われる老人たち。母親を亡くし、父親に捨てられた過去を持つ男は、良心の呵責を感じることなく淡々と作業をこなす。そんな日々が過ぎて行く一方で、その日常とは別にもう一つの世界が存在していた。冷たく静寂に満ちた幻想空間を得体のしれない引力に導かれ、彷徨い歩く男。それは、果たして彼の夢なのか?それとも記憶の残像が見せる幻なのか……?男を照らす2つの世界。ある日、男はいつものように東京から囲われてきた老人の中に、見覚えのある顔を発見する。その老人は、男が小さい頃に行方不明になった父親だった。父との再会により、初めて男の心は揺れ始める。その揺れは、彼の日常ともう一つの世界とが交わるきっかけとなる。導かれるように父を連れて囲い屋を出た男は、自身の欠落を問うために車を走らせる。2つの世界の間を揺れ動くドライブの中で、父と訪れた廃墟には母親の幻影が彷徨っていた。そして、現実と幻想の狭間を航海する一艘の舟が意味するものとは……?