廻り神楽は、正月になると黒森神社の神霊を移した権現様(獅子頭)を携えて集落を廻り、家の庭先で悪魔払いや火伏せの祈祷を行い、夜は宿となった民家の座敷で夜神楽を演じ、人々を楽しませる国指定重要無形民俗文化財である。北は久慈から南は釜石まで、岩手県三陸沿岸の150kmにおよぶ地域を340年以上巡り続ける廻り神楽を、海とともに生きる三陸の人々は家に迎え入れ、海の安全、大漁祈願、家族の安寧の祈りを託す。東日本大震災の津波から間一髪逃れた神楽衆は、深い傷を受けた海辺の人々を慰めようと巡行を再開する。亡き人の魂を慰め、生者を元気づける祈りの舞は春の先触れとなり、人々は長い冬の終わりを感じとる。繰り返し津波が襲って来たこの地で、神楽衆は何百年ものあいだ自然と人々の間を取り結ぶ役目を果たし、ザシキワラシやオシラサマ、神々や精霊が今も息づく豊かな三陸の海辺で、“海の遠野物語”が誕生した。