信州・上田にあるいまなお昭和の匂いが残る袋町で親から受け継いだ町工場を細々と続ける鈴木鉄男(高橋長英)は、76 歳になるまで結婚もせずに暮らしてきた。ここ最近は父親の介護に追われていたが、そんな父が100 歳で他界。商店会長の加賀(金内喜久夫)や、工場を営む渡辺(坂口芳貞)や弁当屋の坪内(原康義)といった幼馴染たちが葬儀に参列し、明るい宴が繰り広げられる。彼らにとって死は明日にでも我が身に起こる現実だった。多くの地方都市と同様にこの町の商店街も工場も少子高齢化の影響で後継者不足に悩まされているが、それでも彼らは活力にあふれている。そんなある日、40 年間も行方知れずだった兄の金之助(柳澤愼一)が、ふらりと舞い戻る。80 歳になる金之助のそばには、娘ほど歳の離れた吉田樹里(土屋貴子)がいた。金之助は父の介護ベッドを寝床に居候を決め込み、金之助と樹里との奇妙な共同生活がスタートする。金之助は持ち前の明るさでこれまでの空白の時間が嘘であるのように鉄男の行きつけのスナック・ババロアにたむろする昔馴染みとも意気投合。樹里の話によれば、金之助はフィリピンで暮らしていた時期もあったらしく、鉄男は借金を返済するため工場の仕事に明け暮れてきた我が身との違いに不公平さを感じる。樹里にもまた人には明かせない秘密がある様子。配達中の坪内が交通事故に遭い、金之助が助けに駆けつけた合間に、樹里は姿を消してしまう。どうやら誰かに連れ去られたらしい。樹里の失踪を契機に、鉄男は金之助から彼女の真相を明かされる。助けを求めている相手を放っておけない性格の金之助にとって、樹里もまたそんな相手の一人だった。金之助の心の中にはもう一人の弟・銀次を救ってやれなかった負い目がつきまとっており、そのせいで鉄男たち家族は迷惑をこうむってきた。これまでの空白の時間を埋め合わせるかのように、40 年ぶりの兄弟喧嘩をする金之助と鉄男。その翌日、金之助は置き手紙を残し再び姿を消す……。