立春。作家のツトム(沢田研二)は犬のさんしょ、そして13年前に亡くなった妻の八重子の遺骨と共に人里離れた信州の山荘で暮らしている。口減らしのため禅寺に奉公に出され、9歳から精進料理を身に着けた彼にとって、畑で育てた野菜や山で収穫する山菜などで作る料理は日々の楽しみのひとつであった。とりわけ、担当編集者で恋人の真知子(松たか子)が東京から訪ねてくるときは、楽しさが一段と増す。皮を少し残して囲炉裏であぶった子芋を頬張る真知子。そんな彼女の喜ぶ姿にツトムは嬉しさを隠しきれない……。立夏。山荘から少し離れたところに、八重子の母チエ(奈良岡朋子)が畑を耕しながらひとりで暮らしている。ツトムが時折様子を見にいくと、チエは山盛りの白飯、たくあん、味噌汁でもてなす。だが八重子の墓をまだ作っていないことを、今日もチエにたしなめられるのだった。自家製の味噌を樽ごとと、八重子の月命日に供えるぼた餅を持たされ、ツトムは帰路につく……。小暑。塩漬けした梅を天日干しにする季節。ツトムが世話になった禅寺の住職の娘・文子(檀ふみ)が山荘を訪ねる。住職に習った梅酢ジュースを飲みながら昔話をするふたり。文子は、亡き母が60年前に住職と一緒に漬けた梅干しを持参。「母は、もしツトムさんに会うたらお裾分けしてあげなさい、と言うて死にました」と文子。その夜、ツトムは作った人が亡くなった後も生き続けている梅干しの味にひとり泣く……。処暑。チエが亡くなった。義弟夫婦(尾美としのり、西田尚美)に頼まれて山荘で葬式を出すことになったツトム。大工(火野正平)に棺桶と祭壇、写真屋(瀧川鯉八)には遺影を頼み、通夜の支度に大忙しだ。東京から真知子もやって来て、通夜振る舞いの支度を手伝うことに。夜、思いがけなく大勢集まった弔問客は、チエに作り方を習ったそれぞれの味噌を祭壇に供える。葬儀のあと、真知子を栗の渋皮煮で労ったツトムは、「ここに住まないか」と持ち掛ける。「ちょっと考えさせて」と応じた真知子だが、しばらくしてふたりの心境に変化を生じさせる出来事が起こる……。