大日本沿海輿地全図

いかなる偉業も、その価値や凄さを理解し評価する者がいなければ脚光はあびない。
本作は立川志の輔が伊能忠敬記念館で日本地図を見て感動して創作した落語『伊能忠敬物語 -大河への道-』を中井貴一が鑑賞して感動したことから映画化されたそうだ。
そんな鳥肌の伝播が本作の情熱となり、単なる時代劇ではなく現代に生きる人間に通じる構成を通じて見る者に伝わった。
中井貴一が下級武士を演じることの安定感は既に感じていたところだが、更にその時代劇の役柄に通じる現代の役所の公務員役がはまり役になっていたことはTVドラマ「最後から2番目の恋」と本作を見て確信した。
将来志村喬とは違う「生きる」を演じることが出来るかもしれないなと思った。
また本作の脚本を現在放映中の大河ドラマ「蔦重」の森下佳子が担当し、江戸時代と現代劇を絶妙なバランスで構成していて驚いた。
それは「蔦重」でも同時代における幕府内部の権力抗争と吉原と言う庶民社会の２重構造をその関連性（平賀源内とか）を織り交ぜ巧みに構成していることとの共通性を再発見したからだ。
またキャステイングも江戸時代と現代で２役演じていて、特に江戸時代の和服姿の北川景子の美しさが際立っていた。
ただ徳川家斉が草刈正雄なのはどうかな？と違和感を感じた。
昔、香取市ではなく佐原市だった頃、仕事で何度かその地を訪れていたことを思い出したが、その頃の情景がまだ残っていることと市役所が今風の建物に変わっていることに時の流れと不変の情緒の２重さも感じたのだった。