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敵(2023)
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以前読んだ筒井康隆原作の不穏さと哀れみが映画でも十分に感じられた。 前半描かれるのは、儀助さんの丁寧な暮らし。 古いながらも美しい日本家屋で、毎朝起きて、三食自炊して、素敵な書斎で執筆して過ごす。邪魔するものもいないし、時折訪ねてきてくれるかわいい教え子たちがいて、旧知の知人とたまにお酒も飲む。 誰もが憧れる老後の暮らしだ。 終活も怠りなく、「預貯金がなくなったら死ぬから」と周囲に放言し、 自尊心を損なうことなく、あくまで自分の人生をすべてコントロールできてきたという自信があふれている。 この前半だけだったら、ヴェンダースの『PERFECTDAYS』のような心地よさがある。 しかし、彼のもとに「敵」が現れる。 「敵」が何かは観る人によって異なると思うが、おそらくあれは「死」が形になったものだと感じた。 いかに現世で成功し、周到に終活準備をしたとしても、死の恐怖は誰に対しても襲ってくる。最初はじわじわ、気づいたらいきなり。 どこにでもある日本家屋の中で、儀助さんの日常が侵食されていく描写が、とにかく不穏。今まで記憶に蓋をしていた不義理なこと、不快だったことが、あふれ出てくる。それが、自分が安心して暮らしていた自宅の居間から井戸から物置からなのだからたまらない。 終始モノクロームで描かれる映像も不穏さに一役買う。 「敵」の不穏さが一層際立つのに加え、原作は25年以上前ながら、モノクロで描くことで映像が時代に囚われることがない。30年後、自分も儀助さんと同じ年になったら、また観なければならない作品だと感じた。儀助さんのように自分の人生をきちんと畳めたとしても、きっと怖いよなと思う。 あと、映画は午前の回で見たが、儀助さんの自炊シーンがとても素晴らしく、観ていてめちゃくちゃおなかがすいた。鮭と白飯の破壊力。冷麺もおいしそう。そのあとのランチはモリモリ食べてしまった。生きる上で食べることは大事。
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