死せる祖父、ドラマを書き直す。

慶事と弔事に振り回される一家のドラマで、題名がそれを十分に示している。都会の平凡な戸建て住宅
に住む一家。一流企業の課長の田中和夫（橋爪功）とその妻佳菜子（吉行和子）、嫁に行った長女玲子
と次女の瞳がいる。祖母に先立たれた祖父源三郎（松村達雄）が同居している。

その祖父の行動から映画は始まる。旅行代理店で北海道旭川への旅の予約。バス通勤する和夫を
尻目に、元気に歩く姿は元気だったが…。和夫は家に帰ると、翌日の結婚披露宴の挨拶の練習に余念
がない。旧友の頼みで息子の結婚式の仲人を務めるのだ。そんな忙しい夕食時に、臨月の長女が帰って
来た。夫が会社の後輩女性に高価なハンドバッグをプレゼントしたことが発覚、実家に舞い戻ったのだ。
一家四人が揃った翌朝、和夫はモーニング、佳菜子は留袖で準備万端だったが、二階の祖父の様子が
ヘン。なんと息を引き取っていたのだった。夫妻は娘たちに亡骸の面倒をみてもらい、結婚式場へ。
披露宴での挨拶はメロメロだったが、なんとか式を済ませて自宅へ急行。妹夫婦の根岸季惠と西岡徳馬
がかけつけ、葬儀社も準備を始めていた。
この予期しなかった葬儀から、家族の秘密が一つ一つ明らかになる。まずは和夫の退職。それも一週間
前のこと。今は給料大幅減の関連会社に転職。佳菜子には一言ももない。次女新山千春は彼氏をグアム
旅行を計画していたが、葬儀で彼氏が焼香に来たのだ。和夫は彼氏のことなど初耳。
祖父源三郎の旭川旅行の切符の発見される、和夫に宛てた手紙も。

前半の喜劇タッチから後半のハートウォームの切り替えがスムーズ。祖父源三郎の大雪山旭岳登山の
意図はセンチメンタルジャニーで、祖父母の結婚の由来が明かされる。長女の結婚相手の西岡にダメ
出しをしたのだが、彼の描くドラマを必ずチェックして感想を書き留める。早く退場した祖父が、家族ドラマ
を書き直し、軟着陸させた。橋爪功の初主演映画は佳作となった。