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エミリア・ペレス
Like1
映画の冒頭から素晴らしい。 どうやら映画の主人公は弁護士のようで、担当している案件は殺人事件を自殺として片付けること。どう見ても依頼人はクロなのだが、仕事だから仕方がない。こんなことの為に弁護士になったのだろうか? そんな気持ちを踊りと歌で吐き出させる熱量に圧倒される。力及ばず虚しい本音と、それを許さないメキシコ社会の現状がミュージカル仕立てで語られる。踊りと歌は虚飾ない本音だけなので、一層、際立つ社会の厳しさ。弁護士が新たに受けた依頼も、相手が麻薬王だから断る選択肢がなかったのか、それとも自身を変える一世一代の大勝負だったのか。いずれにせよ、諸悪の根源である麻薬カルテルとそのトップが、性転換手術をし、まさか人々の救済をするようになるとは。過去の清算、過去の贖罪かもしれないが、いくら捨ててもついてくる過去の悪事。弁護士は、それにどんな気持ちで最期まで付き合ったのか。やはり悪には悪の最期があり、結果、まるで聖人のように崇められてしまったが、それをどんな気持ちで弁護士は見ることになったのか。描かれはしない部分だが、きっと罪悪感と達成感の二律背反だったと思う。 一身に宿る最悪の麻薬王と救済の聖人の二律背反にしても、本作には理想と現実、本音と建前の二律背反が常に登場人物たちについて回っている。思えばブニュエルもメキシコ時代には二律背反、ジレンマの映画を撮っていた気がしないでもない。大してメキシコ映画は知らないが、それでも本作から感じるメキシコらしさ。メキシコだけでなく中米らしさとでもいえるだろうか。 とても面白い映画だった。麻薬王の性転換という設定以上に、ミュージカルで描かれるメキシコ社会と、そこで相容れない理想のジレンマ。とても興味深い。
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