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鑑賞日 2012/05/14  登録日 2025/03/25  評点 65点 

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3D/字幕 -/-
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沢島忠の監督デビュ作

 1957年公開のSP作品「忍術御前試合」。沢島忠の監督デビュ作であります。脚本は小川正、音楽は高橋半。白黒シネマスコープ(東映スコープ)、63分。
 伊賀山中。福島正則(堀正夫)の家臣・山城大力丸(尾上鯉之助)は、石川五右衛門(富田仲次郎)に密書を奪はれます。この奪はれ方が間抜けでした。
 この密書とは、大坂城の隠し砦を示す絵図面を守るために、豊臣秀吉(大河内傳次郎)が甲賀流名人・戸沢白雲斎(高松錦之助)を迎へる書状。五右衛門の親分・伊賀流の百地三太夫(月形龍之介)は、この密書を駿府城の徳川家康(望月健佐)に届けさせます。

 大力丸は命からがら白雲斎の屋敷に辿り着きますが、白雲斎は自分ではなく若い一子・虎若丸(伏見扇太郎)を派遣させます。福島家の護衛に就く虎若丸。一方三太夫は部下の女忍者・さぎり(桜町弘子)に福島家の腰元として潜入させ、例の絵図面を盗ませます。しかし虎若丸に発見され失敗。虎若丸は女は斬れぬと看過し、さぎりは三太夫の元へ戻るも、クビになつてしまふ。

 すると五右衛門は、正則公の娘おねね(植木千恵)を誘拐し、虎若丸を誘き出します。虎若丸はおねねを救ふべく駿府城へ。交換条件の絵図面の巻物が贋物と直ぐにバレ、迎へ撃つ五右衛門と忍術合戦となります。虎若丸が五右衛門に止めを刺さんとしたところ、三太夫が気を送り虎若丸の術を破つてしまふ。虎若丸は地下牢に幽閉されてしまひました......

 伊賀と甲賀の争ひ。大阪城の隠し砦の絵図面を昔ながらの忍術中心の戦ひで、リアルさは皆無でファンタジックな作り。主演は薄幸のスタア・伏見扇太郎。忍術に長けてゐると同時に、優しさも秘めた好青年。子役からは「をぢさん」と呼ばれます。飽くまでも忍術中心なので、殺陣はおまけ扱ひみたい。石川五右衛門が富田仲次郎といふのもちよつと......

 クライマックスの「忍術御前試合」では、三太夫の月形龍之介と一大決戦。勿論主人公が勝つのであります。福島正則には堀正夫、その部下に尾上鯉之助。密書を奪はれるなど、余り良い所がない。秀吉には大河内傳次郎でドラマの重しとなつてゐます。家康役の望月健佐は、元監督の池田富保であります。

 ヒロインは女忍者の桜町弘子。中中良い。任務に失敗しますが、伏見に命は助けられます。この借りを返さうと、駿府城に閉ぢ込められた伏見を決死の救出。これが月形に知れ、裏切り者として処分されてしまふのです。あゝ。
 それから子役たちも大活躍。植木基晴、千恵の千恵蔵チルドレン、風小僧の名子役山手弘。三人とも子供ながらキャリアは豊富で、余裕すら感じられる演技を披露します。特に五郎一の基晴、五右衛門を立派な父と信じる一方、虎若丸を慕ひ「今度会つたら雲に乗せてね」と無邪気であります。

 最後は五右衛門と共に釜茹での刑にされるところを、虎若丸などの懇願により五郎一は助かります。本来は大河内が云ふやうに、将来仇討をされぬ為にも、子供も殺すのが当時の定石。実際史実では五郎一(五郎市)はおろか、五右衛門の一族郎党皆殺し、その人数は10とも20とも伝へられます。映画では虎若丸が五郎一を預り、立派な人間に育てると約束して秀吉を納得させる展開になつてゐます。
 勧善懲悪ヒーローものとして、当時の少年少女が喜んだであらう活劇。明るく楽しい東映時代の、家族で安心して愉しめる一作と申せませう。