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鑑賞日 2012/07/26  登録日 2025/04/28  評点 75点 

鑑賞方法 選択しない 
3D/字幕 -/-
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仲間の自決の真相を探る若親分

 シリーズ第七弾、「若親分兇状旅」であります。監督は森一生がシリーズ参戦、脚本は高岩肇、音楽は鏑木創。主題歌「若親分」「残俠いっぴきの唄」を歌ふのは出演の一人・藤巻潤。カラー作品シネマスコープ、84分。

 海軍少佐の高木(石黒三郎)が自決しました。その性格からとても自殺するやうな男ではないと言はれ、海軍時代の親友であつた南条武(市川雷蔵)はその真相を探らんと高木のゐた町に秘かにやつて来ました。浄閑寺で行はれた告別式では姿を見せず、水面下で高木の下宿先や行きつけの飲み屋「月ケ瀬」で話を聞きます。しかし地元の土建屋小山組や金杉運送の社長・金杉(垂水悟郎)は武の登場を察し、警戒感を持ちます。金杉はかつて海軍時代の武の上官であります。

 小山組の女親分・千代子(江波杏子)は気丈に組を纏めてゐますが、その背後には町の有力者である土屋伯爵(渡辺文雄)がゐました。千代子は亡父が土屋に世話になつた関係で、自由を奪はれてゐる事も分かりました。そして金杉は東西汽船の社長・丸尾(原聖四郎)と繋つてゐて、武器弾薬の密輸をしてゐました。高木はそれを知らず丸尾に汽船を紹介するなど協力した事で、これが明るみに出ると海軍の不祥事となるので、総てを秘して自決したのでした。真相を知られた金杉はあらゆる手を使ひ武から手を引かせやうとしますが、応じない武に遂に牙を剥いて来ました。

 一方で土屋・丸尾・金杉・千代子が一堂に集まり、新たに武器の密輸船出航の計画が。しかしこれ以上悪事に加担したくない千代子は、武に出航計画を伝へます。武は出航を阻止する為、海軍の仲間井川少佐(藤巻潤)に連絡、そして金杉と対決し、これを斬ります。今際の際に、金杉は政界の黒幕・俵藤(永田靖)の存在を告げるのでした......

 親友の自決に疑問を抱いた若親分が、真相を探る物語。ワル共に利用され、海軍の名誉を守るために総てを自分の胸に秘して自害したのが真相で、ワル共がうようよしてゐます。地元のボスは渡辺文雄ですが、いつもの強権的な態度ではなく、民主的(?)なワルです。そして運輸業者で雷蔵のかつての上官・垂水悟郎。汽船会社の社長に原聖四郎。無理矢理協力されられる江波杏子。そして黒幕には憎たらしい永田靖が控へてゐました。

 女優陣。江波杏子さんは既に「女賭博師」シリーズが始つてをり、女親分役もサマになつてゐます。クールビューティー。ワルには利用されるだけで元元は善側です。雷蔵がやたらと「女だてらに」「あんたは女なんだから」と強調し、今ではかういふセリフを言はせるのは勇気が要るでせう。
 葉山葉子さんが、雷蔵の嘗ての部下の妹役。その部下は平泉征で、病気なのに無理に伝令をさせ、結果死亡したと雷蔵を恨んでゐます。真相は雷蔵が治療を依頼するメモを渡したのですが、そのメモは平泉が橋で川に落してしまつた為、誤解されたままです。
 今一人、飲み屋「月ケ瀬」の主・仲村隆の妹に都はるみが登場。東京へ出て歌手を目指す、と云ふ設定です。「恋と涙の渡り鳥」「涙の連絡船」を披露しますが、人気者の顔見せ出演の域を出ません。

 その他浄閑寺の和尚に飄飄とした加藤嘉。雷蔵との共演と云へば「眠狂四郎勝負」を思ひ出します。海軍関係では藤巻潤が続投(役名は前回と別人)で、主題歌も担当します。一方前作迄皆勤賞だつた戸田皓久は姿を見せません。そして人足の一人に丸井太郎。テレビ版の「図々しい奴」で人気者になつたのに、永田ラッパは飽くまでも大映で脇役扱ひにした為、絶望した丸井は本作の僅か一か月後の1967年9月、31歳の若さで自殺する悲劇の俳優でした(遺作は死後に公開された「兵隊やくざ殴り込み」)。もう少し我慢すれば五社協定も雲散霧消し、テレビ時代が到来したので残念な事でした。

 相変らず雷蔵の南条武はカッコイイ。海軍を辞めても海軍魂は持ち続け、それを汚す存在に対しては容赦ありません。海軍の不祥事にならぬやう、結局高木の死はヤクザ同士の争ひに留め真相は永遠の謎とするのでした。一寸強すぎるんぢやないかと思ふくらゐですが、殴りつこのアクションでは線の細さが気になり、やはりドスを持つての立ち回りが画になります。
 ラストは車の運転手に「警察の近くで止めてくれ」と、自首する事を予測させて終り。もはや前科何犯かもわからないし、何人殺したかも勘定出来ぬ程なので、普通ならもうシャバに出られないのではないかと存じますが、スタア雷蔵のファンタジイ任侠ですから、気にする事はないのであります。